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「遊び」は博物館を救う? 東京国立博物館「あそびば☺とーはく!」が問いかけるもの

東京国立博物館が2024年に初めてスタートさせた子供向けのプロジェクト「あそびば☺とーはく!」。その2回目が始まった。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

アップデートされた「あそびば☺とーはく!」

 東京国立博物館が2024年より本格的に展開している子供(と保護者)向けプログラム「あそびば☺とーはく!」は、博物館がこれからの社会において果たすべき役割をあらためて問い直す試みとして注目されている。展示鑑賞を中心とした従来型の博物館体験とは異なり、子供たちが身体を動かし、遊びを通して文化財や博物館空間と出会うことを重視したこの取り組みは、たんなる集客施策にとどまらない意義を持つと言えるだろう。

 同企画は、本館1階にある約500平米の特別5室を利用したものであり、小学生以下の子供とその保護者を対象としている。通常、同館では博物館教育課が「キッズデー」やワークショップなどの子供向け事業を担うが、この企画は部署を超えてチームを編成。東博でも異例の取り組みとして始まった。

 日本を代表する巨大ミュージアムがなぜ、このような取り組みを行うのか。そこにあるのは来館者層の少子高齢化への問題意識だ。そもそも古美術や日本美術を中心とする東博は、主な来館者層は50〜60代。高校生以下の若年層は10%程度にとどまっているという。

 「あそびば☺とーはく!」を立ち上げたひとりである同館広報室の小島佳は、「当館には、そもそも子供は来ないだろうというマインドがあった」と話す。創立150年となった2022年には年間を通して「月イチ!トーハクキッズデー」を実施し、イベント自体は盛況だったものの、SNS広告のリアクションが想定以下だったという。そうした状況を受け、子供を持つ職員が主体となって子育て世代に特化した来館者・非来館者調査を実施。そこから、「授乳室などのインフラ整備の重要性」「恒常的な子供・ファミリー向け施策」「未就学児を含む低年齢層を重点ターゲットに設定した施策」「地域のなかの拠点としての機能重視」という4つのポイントが導き出された。その皮切りとして始まったのがこの「あそびば☺とーはく!」だ。

身長別に分けられた「はつゆめプールボール」

 1万人以上という想定を上回る利用者を記録した前回。今回はそのフィードバックをもとに内容がアップデートされ、山型遊具「とーはくふじ」を中心に、「はつゆめプールボール」や「あそびばみくじ」「カームダウンスペース」「リラックスエリア」「ベビーエリア」で会場が構成された。正解を教え込むのではなく、体験そのものを通じて「博物館は楽しい場所である」という感覚を育むことが重視されている点は注目すべきだろう。

 この試みは、国際博物館会議(ICOM)が2022年に採択した「ミュージアムの新定義」とも強く結びついている。博物館を「教育・研究の場」としてだけでなく、「包摂的で多様性と持続可能性を育む空間」と捉えるこの定義に照らせば、「あそびば☺とーはく!」は、その理念を子供と保護者という具体的な来館者像を通して実践する試みだと言えるだろう。文化財を守り伝えるという使命と、多様な人々が関わる場としての博物館のあり方を、矛盾なく接続しようとする姿勢がそこにはある。

 注目すべきは、この取り組みが短期的な来館者数の増加を目的としていない点だ。幼少期に博物館(東博)で楽しい体験をした記憶が、その後の文化との関わり方に影響を与える可能性は大きい。将来的な来館者、さらには文化の担い手を育てるという長期的な視点に立ったとき、「あそびば☺とーはく!」は博物館の持続可能性を考えるうえで重要なモデルケースとなりうる。

 いっぽうで、こうした参加型・体験型のプログラムを恒常的に運営していくためには、人的・空間的リソースの確保や、展示・収蔵とのバランスといった課題も残されている。博物館の根幹である文化財の保存・研究と、来館者体験の拡張をいかに両立させるのか。この問いに対する試行錯誤は、東京国立博物館に限らず、今後多くの博物館が向き合うことになるだろう。

 「あそびば☺とーはく!」は、博物館を「静かに鑑賞する場」から「ともに時間を過ごし、関係を育てる場」へと更新する試みである。その実践は、ミュージアムが未来へと引き継がれていくために何が必要なのかを、私たちに具体的なかたちで示している。

めでたいモチーフが描かれたおみくじが引ける「あそびばみくじ」
150冊以上の子供向けの本が読めるリラックスエリア

編集部