7つの国立館(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館)を所管する独立行政法人国立美術館。ここに、「国立アートリサーチセンター」が3月28日に設立する。
センター長に片岡真実。4つの事業を推進
同センターの組織は独立行政法人国立美術館の本部内に位置し、九段下にオフィスを置く。常勤職員は26名。23年度の予算規模は8.5億円だ。事業には「アートをつなげる、深める、拡げる」をキーワードに、「美術館コレクションの活用推進」「情報資源の集約・発信」「海外への発信・国際ネットワーク」「ラーニングの拡充」の4つを柱に据える。
人事にも注目したい。各事業グループのリーダーは、大谷省吾(作品品活用促進グループ)、川口雅子(情報資源グループ)、一條彰子(ラーニンググループ)が担う。いずれも各国立美術館での勤務経験を持つベテランだ。またセンター長には、「文化庁アートプラットフォーム事業」をリードしてきた片岡真実が森美術館館長と兼務するかたちで就任した。かつてCIMAM(国際美術館会議)でも会長を務めるなど、海外との強いコネクションを持つことを考えると、適切な人事と言えるだろう。
では各事業の詳細を見ていこう。
例えば「美術館コレクションの活用推進」では、国立美術館同士のコレクションで構成する「国立美術館 コレクション・ダイアローグ」と、開催館コレクションに国立美術館の収蔵品を1~数点加えて構成する「国立美術館 コレクション・プラス」という2つの連携事業がすでに決定。国立美術館のコレクションを活用した展覧会の開催によって、日本におけるアートの認知向上を担うとしている。作品の修復・保存の推進もその役割だ。
「情報資源の集約・発信」の重点事業は、国立のみならず全国の美術館収蔵品を横断的に検索できるデータベース(「全国美術館収蔵品サーチ」)をアートプラットフォーム事業から継承・発展させるとともに、日本のアーティスト事典の構築、メディア芸術データベースの継承も担う。
また「海外への発信・国際ネットワーク」は、日本人アーティストの海外でのプレゼンスを高めるために支援を行い、「ラーニングの拡充」では、現代において大きな課題である健康とウェルビーイングをアートとつなげる調査研究を行うほか、アクセシビリティ向上に向けたツールの開発なども担うという。
「アート振興の中核に」
各館で担いきれない事業を横串で担う国立アートリサーチセンター。翻ると、これまで国は2013年度に初めて現代アート関係の予算を文化庁に計上。それ以降、「文化庁アートプラットフォーム事業」(2018年度〜)や文化経済部会新設(2021年度)など、アート振興を目的とする政策に取り組んできた。また22年1月には、岸田総理が衆議院本会議代表質問で、独立行政法人国立美術館がアート振興の中核となることや、抜本的な機能強化を進めていくことを明言している。そうした流れが、ここに結実したかたちだ。
文化庁の都倉俊一長官は国立アートリサーチセンター設立について、「アート振興の中核になることが期待される。才能の発掘や世界への発信をより強化していきたい。やっと日本が世界のアート界に打って出ることができる」と意気込む。いっぽうで文化庁の予算は1000億円程度で推移を続けており、先進諸国のなかでは低い水準にあることも事実だ。今回の国立アートリサーチセンターは、国立館のみならず、幅広く山積する課題解決への糸口となるとともに、アート振興の重要性を国に訴え、予算増大へとつながる第1歩となることが期待される。