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国立国際美術館 学芸課長・植松由佳が語る、国立美術館の作品収蔵とその挑戦

日本の国公立美術館として昨年、初めてルイーズ・ブルジョワの作品を収蔵した大阪の国立国際美術館。この画期的な収蔵を通じて、国立美術館の収蔵方針やコレクションの課題について、同館学芸課長の植松由佳氏にインタビューした。作品収蔵の意義やこれからの展望について考察する。

聞き手=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「コレクション2 身体———身体」展(国立国際美術館、2024年2月6日~5月6日※4月9日に建物工事の影響により終了)の展示風景より、ルイーズ・ブルジョワ《カップル》(1996)

なぜ、いまブルジョワなのか?

──ルイーズ・ブルジョワの作品《カップル》(1996)を収蔵することになった経緯について教えてください。

 もともと、ルイーズ・ブルジョワは当館にとって重要な作家のひとりとして位置づけられており、彼女の作品を収蔵したいという希望は、私が2008年に国立国際美術館に着任する前からありました。しかし、具体的な候補作品もあったものの、予算やタイミングの問題などで実現しませんでした。

 継続的にリサーチを続けるなか、2022年に「こういう作品があります」と作品情報を受けたなかのひとつが《カップル》で、当館にもっともふさわしいと判断し、この作品の収蔵が決まりました。

 収蔵を決定した背景には、令和4年の独立行政法人国立美術館の収集方針の見直しも理由のひとつとして挙げられると思います。この基本方針は、国立美術館各館の収集方針を含め、国立美術館全体での方針を示しており、新たに強調されたのが、国際的に是正が求められているコレクション内におけるジェンダー・バランスや地域性など多様性への配慮です。当館では国内外の作家を収集対象とするナショナル・コレクションの形成を目指しており、見直しにより、ジェンダー・バランスの是正や非欧米地域の動向、また国内での地域性も考慮するという方針が追加されました。館長との話し合いでも、女性作家の作品をもっと意識的に収集していくべきだという方向性を示すことを決定しました。ルイーズ・ブルジョワは、その象徴的な存在として大きな意味を持ちます。とくに女性彫刻家の活躍の場は限定的なものであったと指摘できるのではないでしょう。

 もうひとつ重要な点として、2010年度から独立行政法人国立美術館には政府から特別な購入予算が付くようになりました。この特別予算は、国内にある作品の国外流出を防ぐためや、通常の予算では購入できない高額な作品を取得することを目的として使われています。

 今回の収蔵作品に話を戻すと、ジェンダー・バランスの観点からも、女性彫刻家による作品が少ないなかでブルジョワの作品の収集は非常に重要です。美術史を振り返り、当館のコレクションに欠けている作家、どの作家を含めるべきかを考えたとき、ブルジョワは欠かせない作家のひとりだと思いました。

「コレクション2 身体———身体」展の展示風景より、ルイーズ・ブルジョワ《カップル》(1996)

 今回購入した《カップル》は、1996年に制作されたブルジョワの晩年のソフト・スカルプチャーです。この頃から、彼女は亡き夫のシャツや息子の服などを使って縫い合わせたソフト・スカルプチャーを制作し始めました。当初はケースに入れずに発表していましたが、後にブルジョワは自身がデザインしたケースに収めて発表することを好むようになりました。この作品は、ブルジョワの代表的一点であり、特別予算の支援があったからこそ購入が実現しました。

 また、1997年に横浜美術館がブルジョワの大規模な回顧展を開催していますが、作品を購入していないですし、日本の国公立美術館には彼女の作品が収蔵されてはいません。有楽町の国際フォーラムや六本木ヒルズに彼女のパブリック・アートはありますが、美術館内で展示される機会は少ないです。このため、日本の観客にブルジョワの晩年の代表作を見せることには大きな意義があると考えています。

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