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「北島敬三写真展 借りた場所、借りた時間」(長野県立美術館)開幕レポート。他者を映すとはどのようなことなのか【4/5ページ】

 90年代以降、北島の興味は国内の風景にも向けられるようになる。00年代前半から撮影された、国内の風景を撮影したシリーズ「PLACES」は、東日本大震災の経験を経て「UNTITLED RECORD」と名を改めて撮影を続けられた。北海道の建築物、あるいは震災と原発事故を経験した東北の街、その他の名も無い建物たちが静かに写し取られている。人の存在がそこになくとも、匿名的な風景の佇まいは、その土地に生きるであろう人々の姿をかすかに映す。

展示風景より、「UNTITLED RECORDS」シリーズ

 北島の被写体との向き合い方の原点には、キャリア初期の70年代に撮影した沖縄・コザでの経験があるという。反米暴動「コザ暴動」が起きたこの場所を被写体に選んだ北島は、内地人として被写体に向き合うことそのものについて思慮することになった。北島がこれまで撮影してきたポートレイトと風景写真が入り混じる本展は、人間、そして人間の住む風景との距離を逡巡し続けた北島の姿が見え隠れする。それは、あらゆる人々がスマートフォンのカメラを手にし、すぐに共有できるこの時代において、表現とは何かを考えるうえでも重要な姿勢かもしれない。「借りた場所、借りた時間」というタイトルに込められた意味を、改めて考えたくなる展覧会だ。

展示風景より、「PHOTO EXPRESS KOZA 1975-」シリーズ

編集部