• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「北島敬三写真展 借りた場所、借りた時間」(長野県立美術館)…

「北島敬三写真展 借りた場所、借りた時間」(長野県立美術館)開幕レポート。他者を映すとはどのようなことなのか【3/5ページ】

 2階の展示室では、被写体を求め活動の場を世界へと広げていった時代の北島の作品群を紹介。81年に渡米した北島は、3ヶ月間ニューヨークに滞在位。その後も再訪して6ヶ月間滞在し、900本のフィルに相当する撮影を行った。これらは写真集『New York』にまとめられ、本作で北島は木村伊兵衛写真賞を受賞した。新宿を拠点としていた時代と同様に、街に入り込み、ストロボを炊いて人々の持つ一瞬の熱量を写し取っている。

展示風景より、「New York」シリーズ

 ニューヨーク滞在時に東欧での撮影を構想していた北島は、83年に渡欧しベルリンを拠点に東欧を訪れてストリートスナップを撮影した。このときの撮影では、これまでと異なり被写体との距離を感じる作風へと変化する。ローアングルで被写体の瞬間を盗み取るような視点は、まだ東西に世界が分かたれていた頃の東側の風土までをいまに伝える。

展示風景より、「EASTERN EUROPE」シリーズ

 ほかにも北島は小説家・中上健次との共同連載を『朝日ジャーナル』で持っていたが、このときに撮影されたストリートスナップは、様々な都市で撮影された風景とともに91年、写真集『A.D.1991』としてまとめられる。スナップシューターの名手としての北島の集大成ともいえるが、いっぽうでこれ以降、北島は作風を大きく変えていく。

展示風景より、「A.D.1991」シリーズ

 北島は91年、ソビエト連邦を訪れ50日間にわたり撮影を行った。ソビエト崩壊の直前に撮影されたこの写真群は「ソ連が忘れさられたころに発表したい」という北島の意図のもと、16年後の07年に個展「USSR 1991」として日の目を見た。カメラ目線の人物たちの表情は、巨大な政治体制の終焉に立ち会った人々の困惑、そしてかすかな期待でもあるように感じられる。

展示風景より「USSR 1991」シリーズ

編集部