1階ではほかに、シルヴィ・セリグによる、ギリシャ神話の女神ダフネをモチーフに刺繍と絵画を組み合わせたトリプティクなども目を惹いた。また、コラクリット・アルナーノンチャイによる、圧巻のイマーシヴなビデオ・インスタレーション《死後の愛》の隣に、ひっそりと展示された、サウジアラビアの若手ムハンマド・アル・ファラジによるインスタレーション《水中の茶葉のように》の、砂が敷き詰められた空間での写真展示は、東アジアとは全く異なる環境の中で暮らす人々への想像を掻き立てる。


地階は「目撃者、そして変容の場としての身体」にフォーカスしたフロアだ。セルビア生まれでNYを拠点とするイヴァナ・バシッチは、ユーゴスラビア内戦のただ中で育ち、多くの暴力を目にした。呼吸のリズムによる動きやサウンドなどを伴う立体作品は、身体器官の有機性や儚さを、吹きガラスや蝋、石、金属などを用いて表現している。ベトナムに生まれドイツで育ったスン・テウは、仏領インドシナ連邦政府が、度量衡システムをどのように統治に利用したかを、コンセプチュアルでミニマルなインスタレーション作品で探究している。

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2階では、近代性や表象、帰属意識の共有についての作品が展示されている。ロンドンをベースに活動する横溝静が受嘱制作したのは、実家の母親が四季を問わず、アパートのベランダでガーデニングに勤しむ映像作品だ。本棚の上の植物に関する英語や日本語の本、夫とともに育てた植物のスライドを眺める時間などが淡々と描かれる。非常に理路整然と紡がれるその暮らしぶりは、温かな眼差しをもって記録されており、いくら見ても全く見飽きることがない。

また収蔵作品から選ばれた、陳植棋(チェン・ジーチー)による《台湾郷景》(1925-30)や、陳澄波(チェン・チェンボー)の《夏日街景》(1927)、《嘉義の展望》(1934)は、いずれも近代化の中で変わりつつある台湾の風景を、故郷への情感たっぷりに描いたものだ。このほか、キュレーターによる前掲テキスト中で触れられた国立故宮博物院所蔵の黄公望《富春山居図》(1350頃)からインスピレーションを得てイヴァ・ジョスピンが受嘱制作した立体作品など、自然と人間の関係をテーマにした作品が印象に残る。

台湾で根強い人気を誇り、これまでも当地での多くの招待機会を持つさわひらきは、作品を通じ「未来の記憶」を掘り下げた。「自らの意思に反し、時間の流れにズレが生じた体験」を軸に据え、台北の日本語を介したデイケアを行う福祉施設に集まる高齢者と、郷里に近い能登半島被災地の高齢者へのインタビューを重ね「一番大切な記憶」を収集した。集められた記憶のかけらを元に、男の影が何かを探しさまよう象徴的な映像とオブジェ、文字などによって、詩的な作品を作り上げた。




















