展覧会を導く3つのモチーフと、時代を超えた作品からのレファレンス
2人は、1年以上をかけたリサーチを通して、台湾独自の歴史と関わる映画や文学に登場する3つのモチーフを、展覧会を導くオブジェとして選んだ。1つ目は、日本時代から国民党時代までを生きた台湾の民間芸能「布袋戲(ポテヒ)」の人形使い、李天禄(リー・ティエンルー)の人生を描いた侯孝賢(ホウ・シャオシェン)による長編映画『戯夢人生』の人形。2つ目は白色テロの時代の若者の憧憬と絶望を描いた陳映真(チェン・インジェン)による短編小説「私の弟康雄」(『戒厳令下の文学 台湾作家・陳映真文集』[せりか書房、2016]収録)に登場する日記。そして3つ目は日本時代から現代までを舞台にし、とくに台湾の人々と太平洋戦争との関わりが描かれた呉明益(ウー・ミンイー)の長編小説『自転車泥棒』(文芸春秋、2018)の盗まれた自転車である。

2人は参加アーティストを選出した際、これらのモチーフや国立故宮博物院・台北市立美術館のコレクションからの作品についての長いテキスト「地平線上の囁きー 2025台北ビエンナーレの企画コンセプトのマッピング」(Whispers on the Horizon- A Mapping of the Curatorial Concept of the 2025 Taipei Biennial、展覧会図録に収録予定)を書き、彼らと共有している。
展示会場では、ところどころに、それらモチーフとの出会いが待っている。写真作品がもっともストレートにモチーフを表しており、張照堂(ジャン・ジャオタン)による《戯夢人生》で描かれた人形使い李天禄その人の肖像や、劉安明(リウ・アンミン)によるポテヒの舞台と観客、徐清波(シュー・チンボー)や鄧南光(デン・ナングァン)によって捉えられた自転車、楊基炘(ヤン・ジーシン)による鳥籠を手にする男、蕭永盛(シャオ・ヨンシェン)による《士官とその弟》などがある。また高田冬彦の作品《The Princess and the Magic Birds》に出てくる、月明かりの中で少年の耳元で妖しい物語を囁く小鳥は、『自転車泥棒』の登場人物が一緒に暮らす、特攻隊員の生まれ変わりのシロガシラを思い起こさせ、同じく『自転車泥棒』で、人間との深い交流が描かれたオランウータンや象など、台北動物園の動物たちのイメージが、モナ・ハトゥムの檻のインスタレーション《セルュール》(細胞、小部屋、独房などの意)と結びつく。


and WAITINGROOM. Image Courtesy of Taipei Fine Arts Museum, photo by Lu Guo-Way.

さらに、今回のビエンナーレでは、「思慕の探究のアンカー的役割」(前掲文より引用)として、台北市立美術館のコレクションから、絵画や写真をはじめとする収蔵作品が30点ほど展示され、上述の3つのモチーフや、現代作品との共鳴が探られた。本来模索していたという国立故宮博物院とのコラボレーションは残念ながら実現しなかったが、故宮の作品から着想を得た委嘱作品も複数展示された。



















