各階のテーマごと丁寧に練られた展示構成
会場は台北市立美術館の1階と地階、2階。各階にテーマがあり、鑑賞ガイドやマップに振られた番号が、動線を示す。会場全体に設えられたカーテンは、緩やかに空間を区切り、柔らかなリズムを生み出すだけでなく、半透明の布の向こうに微かに見えるものに対して自然と沸き起こる好奇心を引き出す。
1階では、「献身や記憶、忍耐といった要素が深いところで繋がる作品群」が展示されている。15メートルの吹き抜けのあるロビーに設置された、大型LEDスクリーンとボール紙製の零戦飛行機によるビデオ・インスタレーションは、台湾の若手作家、邱子晏(チョウ・ズーイェン)による《偽の飛行場》だ。映像では、凧揚げをしていた少年が古い防空壕に迷い込み、中でボール紙の零戦飛行機を作る老人に出会う。邱は、自身が暮らす雲林県北港で、第二次大戦末期に日本軍によって建設されたトーチカを見つけたことをきっかけに、敵の目をくらますための偽の滑走路や偽の飛行機の歴史を探り当て、近くの廟の習俗を含めた大量のリサーチを行い、作品を制作した。観客はタラップを上がって零戦の操縦席に座り、スクリーンとは異なる映像を見ることもできる。虚実ないまぜの飄々としたヌケ感を保ちながら、徹底して物質化・視覚化された作品は、人間、歴史、戦争、そして真実とは、という疑問を問いかける。

こういった素材による虚実の同居は、ナリ・ワードの《サウンドシステム》の大理石のスピーカーをはじめ、1階の多くの作品に見られる。中古のベニヤ合板で作られたエンリケ・オリヴェイラの《雑草(Cizania)》は、有機的な形状が建物に張り付く蔓性の植物にも見え、生命力と攻撃性、自然と人造物の間の衝突が表現されている。オマール・ミスマールの《私の両目は涙を流す》は、1870年に出版されたパレスチナの花についての本を参考に、54種類の花を台湾の造花メーカーとともに再現し、非常に華やかでありながらどこか不自然なフラワー・アレンジメントで入場する観客を迎える。


1階の中央に、観客を囲うように天井から吊るされた4つのスクリーンが映し出すのは、韓国出身でベルリンで活動するタク・ヨンジュンの、ダンスを軸に、東西の文化、宗教、身体、クィアといった要素を探究した映像作品だ。隣では、収蔵作品から、台湾クィアアートの先駆者として知られる席徳進(シー・ダージン)による《長髪の青ブリーフの青年》(1975)が、静かなエネルギーを湛える。当展では、トビアス・ツィエローニーによる写真など、性的マイノリティに関する作品がところどころで展示され、印象を残す。


2階で展示されている陳柏豪(スカイラー・チェン)は18歳でアメリカに留学して以来長らく海外を拠点にしているが、2019年の台湾の同性婚合法化前に運動に関わったことをきっかけに、クィアをテーマにした絵画を制作し始めた。今回は、二・二八事件の犠牲者であった大叔父についての作品も展示している。




















