「FUJI TEXTILE WEEK 2025」(山梨県富⼠吉田市)開幕レポート。織物の町に流れる“見えない力”を可視化する【4/5ページ】

下吉田第一小学校プール会場

 下吉田第一小学校の旧プールには、かつての監視台や救命器具がそのまま残され、「視線によって安全が保たれていた場所」の記憶が空間全体に刻まれている。薄く水の張られたプールから立ち上がるのは、明見湖の蓮池を参照した柴田まおによる《Blue Lotus》である。

展示風景より、柴田まお《Blue Lotus》

 プールの周囲には複数のモニターが並び、カメラが会場の様子をリアルタイムで映し出す。柴田はこれまでもクロマキー合成を用い、青い彫刻が映像上で“消える”仕組みを作品化してきたが、本作では鑑賞者が長靴で蓮池に踏み入ると、青い布がカメラを遮り、鑑賞者自身が画面上から消える。いっぽうで、監視台が担っていた安全の機能は空白となり、空間は視線の途切れた不安定な状態へと移行する。

 それは、「見る/見られる」という構図が「守られる/狙われる」という別の関係性へ転換する瞬間でもある。AI監視、無人ドローン、AIカモフラージュ布など、テキスタイルと監視技術が急速に接続されつつある現在、柴田の作品は可視性と保護の境界を鋭く問いかけている。

編集部