• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「オランダ×千葉 撮る、物語るーサラ・ファン・ライ&ダヴィッ…

「オランダ×千葉 撮る、物語るーサラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ×清水裕貴」(千葉県立美術館)開幕レポート。知られざる千葉とオランダの関係を写真から紐解く【3/4ページ】

 清水はこの時代の日本の芸術家に影響を与えた、何気ない田園風景に美を見出したバルビゾン派の作風と、昭武が写した風景の関連性にも着目する。当時は農村の風景が色濃く残っていた江戸川沿いの松戸近辺を写した昭武の写真を参考に、清水もその足跡をたどるように写真を撮影した。なお、ここでは、カミーユ・コローや、シャルル=フランソワ・ドービニー、テオドール・ルソーといったバルビゾン派の画家による、同館所蔵の作品も展示される。

展示風景より、左が徳川昭武《吉ヶ崎(1)》(1908)と清水裕貴の風景写真

 また、清水は慶喜や昭武をはじめとした、旧大名や公家からなる写真愛好家グループが刊行していた写真集『華影』も紹介。権力構造が大きく変化した江戸から明治への移り変わりのなか、かつての権力者がいかに芸術を自分たちの楽しみに取り入れていったのかを照らし出す。

展示風景より左が『華影』明治36年12月号、右が同号に掲載の岡部長織出品《COROT》

 清水は、稲毛にある国の登録有形文化財・旧神谷傳兵衛稲毛別荘もリサーチした。日本のワイン王と呼ばれた神谷傳兵衛は、稲毛に別荘を建てる。稲毛が海沿いの保養地であった記憶を留めるこの別荘だが、かつて目の前にあった海は、現在は埋め立てられて海岸線がはるか遠くになっている。清水は別荘の窓ガラスから見えたであろう、かつての海の情景を留めようと、撮影した場所の泥やカビを収集。そこに漬け込んで腐らせたフィルムをプリントし、作品を制作した。清水はこの手法で千葉の各所の作品を作成。眼の前の風景のみならず、そこにある土地の要素が画面を浸食し、積極的に関与する作品群が現れた。

展示風景より、清水裕貴の稲毛を写した風景写真
展示風景より、左が清水裕貴《浮上―実験場跡地 千葉県館山市》(2024)

 なお、千葉県を代表する洋画家といえる浅井忠のほか、稲毛にアトリエを構えたジョルジュ・ビゴーが描いたかつての千葉の海岸風景なども併せて展示されており、同館コレクションにも新たな光を当てている。

展示風景より、右がジョルジュ・ビゴー《稲毛村の我がアトリエ》(1892-97)

編集部