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総合開館30周年記念 日本の新進作家 vol.22「遠い窓へ」(東京都写真美術館)開幕レポート。個人の物語をすくい取る、5人のイメージの重なり【5/5ページ】

 呉夏枝は、帝国主義時代以前の太平洋の自由さ、以後の境界や支配の成立をテーマに作品を制作。《Seabird Habitatscape #2-Banaba,Nauru,Viti Levu》は、自由な海鳥の視点をアーカイヴ写真をもとに想像する「Seabird Habitatscape」シリーズのひとつだ。

展示風景より、呉夏枝《Seabird Habitatscape #2-Banaba,Nauru,Viti Levu》

 本作は、オーストラリアの機関が所有する、ナウル、キリバス、フィジーなどの南洋諸島で撮影された写真を布に織り込んだ作品。そこには、欧米、日本、オーストラリアが資源や領土のためにこれらの島々を占領した記憶が刻まれている。アーカイヴがたんなる記録ではなく、多重に織り込まれた歴史の断片であることを意識させる作品であると同時に、鑑賞者の持つ世代を超えた責任をも問いかけるものにもなっている。

展示風景より、呉夏枝《Seabird Habitatscape #2-Banaba,Nauru,Viti Levu》

 写真や映像は、個人の歴史の重なりと、そこに宿る小さな物語をいかにすくい上げられるのか、5人の作家の深い思考を感じられる展覧会だ。イメージが氾濫するいまだからこそ、「そこに何が写っているのか」ということについて、真摯に向き合う大切さを教えてくれる。

編集部