そして第3章「《少女と白鳥》を視る」では、本展開催のきっかけとなった《少女と白鳥》が展覧される。1919年作とされていた本作が、その年代に制作されたものではないと判断するまでに行った科学調査の詳細を、実作品と資料とともに紹介されている。

徳島県立近代美術館からの連絡により今回の疑惑が浮上したが、そもそも本作を購入した1996年の段階で、どのように本物だと判断したのかという点についても明らかにしている。
例えば、美術市場における作家の真作を裏付けるひとつにカタログ・レゾネの存在があるが、実際当時本作を真作と認めたカタログ・レゾネも会場に展示されている。またオークションに出展された際の資料も同じく展示されており、これまでにいくつもの真贋鑑定が行われる機会を通過してきたのにも関わらず、今回まで贋作であると発覚しなかったことがわかる。いかに真贋判定が難しいかを物語る事実だ。

疑惑が発覚したのち、田口主導のもと本格的に科学調査が開始された。科学調査といっても、その目的や状態に応じて様々な調査方法が存在するが、今回は目視での調査も含め5段階で調査が行われた。それぞれの調査において専門のチームを都度組み、最終的には絵具を一部サンプルとして採取する方法を採用。制作年とされる時代にほぼ市場流通はされていなかった「チタニウムホワイト」「フタロシアニンブルー」「フタロシアニングリーン」といった顔料の使用痕跡を発見し、今回の真贋判定の大きな決定材料となった。
通常、作品保存の観点から、作品の一部を採取する方法は滅多に取らないという。しかし今回においては、サンプルを取らないと判断できない状況であった。ただ、微量のサンプルを用いて科学調査することで、いままでわからなかった作品の深部の理解を進めることができた貴重な事例となった。
会場では、実際の調査方法の詳細についても詳しく紹介しており、どのような科学技術が、作品理解に役立ったのかを明らかにしている。また本作の作者だと判明したヴォルフガング・ベルトラッキ(1951〜)の発言がまとまった資料もあわせて展示されている。






















