サム・メッツは、ニューロダイバーシティ(神経の非定型性)について探求している作家だ。メッツは、かつて本館のある木場周辺に多くあった貯木場に関心をもち、木材を水に浮かべてゆるく束ねるその造形と、ドローイング・アニメーションを組み合わせて《木を踏む》(2025)を構成した。ここでは同館コレクションの藤牧義夫(1911〜35)と石井柏亭(1882〜1958)の、隅田川を題材とした木版画とともに展示されている。

さらにメッツは自身のトゥレット症候群による上半身の不随意運動を表現した《ねじれ》(2021/2025)を再制作し、また館所蔵の植木茂(1913-1984)による木彫《トルソ》(c.1952)2点と展示することで身体の静と動について問いかける。
ジョナタス・デ・アンドラーデはブラジル・レシフェを拠点に、同国の北東部の社会的現実を軸に、その複層的な植民地支配の歴史や、根強く残る不平等と排除の構造を問い直すアーティストだ。展示作品の《抵抗への飢えーカヤポ・メンクラグノチの礎》(2019)は、アマゾン南東部にあるプカニ村に暮らすカヤポ族の女性たちとともに制作した作品。先住民の土地の境界を画定するためにブラジル政府が制定した公式地図の上に、女性たちが日常生活において身体に描いてきた、それぞれ固有の意味をもつ祖先伝来のボディ・グラフィックを重ねることで抵抗を示した作品だ。

さらにアンドラーデは、ブラジル北東部の内陸の乾燥地帯にあるヴァルゼア・ケイマーダ村を舞台とした映像作品《導かれたゲーム》(2019)も展示している。水や公共資源、教育へのアクセスが限られているこの村では、住民自身が独自に発展させた手話によって会話がなされている。スクリーンにはここで使用されているジェスチャーと対応する言葉が表示され、コミュニケーションの切実さが提示される。

ライス・ブリューイング・シスターズ・クラブ(RBSC)は、「社会的発酵」という概念を掲げ、韓国・釜山を拠点としてきた。RBSCは日本と韓国の海女文化に着目。オーラルヒストリーを編みながら、海女にとって重要な場となっている囲炉裏をモチーフにした構造物を制作し、その中心では海女の越境性や自然との交歓を表現したアニメーションを上映。さらに天草をもとにしたバイオプラスチックによる彫刻も点在させて、インスタレーション《ウミ、手、海女たち》(2025)をつくり上げた。




















