• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「開館30周年記念展 日常のコレオ」(東京都現代美術館)開幕レ…

「開館30周年記念展 日常のコレオ」(東京都現代美術館)開幕レポート。構造と権力のなかで生き抜くためのアート【4/4ページ】

 本館を象徴する吹き抜けでは、タイ・バンコクを拠点に、自身の経験と女性の身体を着想源とするピナリー・サンピタックが大型のインスタレーション《マットと枕》(2025)を展開した。本作はタイの伝統的なキット枕や敷物、日本の上敷きなどを使用しており、来場者は靴を脱いで作品の上でくつろぐこともできる。枕は紐で互いに結ばれているが、ほどいて自由に組み替えることも可能であり、そこにある身体そのものがインスタレーションの一部となっている。

展示作品より、ピナリー・サンピタック《マットと枕》(2025)

 さらに本展は、多彩なワークショップも本展を構成する重要な要素となっている。FAMEMEは8月29日にトーク&ライブパフォーマンスを開催。檜皮一彦は8月30日と31日に《MOTにおける車いすのコレオグラフィーを実験する。》を開催する。参加者が実際に車いすを使って(乗る/押すなど)、その空間における移動のしやすさや振る舞いのあり方を体験的に検証する。また、公共空間で生まれるふとした「接触」の瞬間に目を向け、私たちの身体が他者とどうつながっているのかを探るカレル・ファン・ラーレのパフォーマンス《Contact》にも注目だ。

 越境的な人の交流がますます加速し、それにともなう軋轢や差別的な物語も語られるようになっている現代社会。他者をそこにある位相ごと尊重するために何ができるのか。困難なことであるが、しかし、そこにアートの意義も存在すると思わせてくれる展覧会だ。

編集部