《オクタビオ・パスのために》の隣にあるガラスケースの作品《月のきるかさの雫や落つらん》(2018-24)は、江戸末期の尼僧で歌人・大田垣蓮月の詩に着想を得たもの。巨大なケースの中にはキーファーのパレットが吊るされ、その下部には破損した絵画用の木枠と鉛の枕などが積み重なる。

畳の間に広がる数えきれない麦の穂。《モーゲンソー計画》(2025)と題された本作は、第二次大戦中にドイツ出身のアメリカ合衆国財務長官のハンス・モーゲンソーが立案した、ドイツを農地化させる占領計画「モーゲンソー計画」を想起させる。敗戦と荒廃をイメージさせる風景でありながら、いっぽうでゴッホの《ヤマウヅラの麦畑》をも彷彿とさせる作品だ。


人類の記憶と苦難、そしてそこからの超克を圧倒的な作品によって伝えるキーファー。本展に並ぶ作品も同様であり、歴史や哲学、宗教などから取られた題材が象徴的に使われている。しかしゲスト・キュレーターの南條が語る通り、「それらをいかに読むかは鑑賞者に開かれている」のだ。



