初公開の紫式部図や俵屋宗達の国宝も
3章は、時代を超えて読み継がれ、様々な芸術にインスピレーションを与えてきた紫式部の傑作『源氏物語』にフォーカスしたもの。
土佐光起による《紫式部図》(江戸時代 17世紀)は細密描写が存分に生かされたもので、文机に肘をつき、手に筆を取る姿は石山寺で琵琶湖に映る月を見て『源氏物語』を書き始めたという伝承に基づくもの。本展が初公開だ。
本展のハイライトは国宝である俵屋宗達の《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)だ。本作はその名の通り、「関屋」と「澪標」の場面を各隻に描いて組み合わせた作品。ともに、光源氏と女君の邂逅の場面だが、主人公の姿は明示させず牛車と舟でその存在を暗示している。関屋の山や澪標の太鼓橋など、大胆な画面構成からは宗達の優れた感性が見出せるだろう。なお本作はもともと京都の醍醐寺に伝わったもので、1895年頃に三菱財閥2代目で静嘉堂文庫美術館の礎を築いた岩﨑彌之助(1851〜1908)が醍醐寺に寄進した返礼として岩﨑家に贈られたものだという。