2022.9.30

静嘉堂文庫美術館が丸の内に移転・開館。130年の時を超え、都心の新たなアートスポットに

岩﨑彌之助(1851〜1908)とその息子・小彌太(1879〜1945)の父子二代によるコレクションを収蔵・公開する静嘉堂文庫美術館が、東京・丸の内の明治生命館に移転。愛称「静嘉堂@丸の内」を携え、新たなスタートを切った。都心で良質な日本美術・東洋美術を鑑賞できるスポットとなる。

静嘉堂文庫美術館のホワイエ。重要文化財である明治生命館の意匠が生かされた空間だ
前へ
次へ

 東京・丸の内に新たな美術館が誕生した。世田谷区岡本から移転した静嘉堂文庫美術館(愛称「静嘉堂@丸の内」)だ。

 静嘉堂文庫美術館の礎は、岩﨑彌之助(1851〜1908、岩崎彌太郎の弟で三菱第二代社長)とその息子・岩﨑小彌太(1879〜1945、三菱第四代社長)による父子二代のコレクション。約20万冊におよぶ古典籍と6500件の東洋古美術品のなかには、国宝7件と重要文化財84件が含まれており、日本のプライベートコレクションのなかでも重要な位置を占めている。

 1892年に創設された「静嘉堂」は、1977年にコレクションが一般公開。その後、92年にいまの名称である静嘉堂文庫美術館として世田谷区岡本に開館し、2021年まで同地で活動を続けてきた(美術品の保管管理・研究閲覧業務と、書庫である静嘉堂文庫や敷地・庭園の管理業務は引き続き世田谷で継続)。

ホワイエには岩﨑彌之助と岩﨑小彌太の胸像が設置されている

130年前の「夢」を実現

 そして静嘉堂創設130周年にあたる今年、静嘉堂文庫美術館が三菱と縁の深い東京・丸の内の地で新たなスタートを切った。

 静嘉堂文庫美術館の新天地は、1934年に竣工され、いまなお重厚な存在感を放つ「明治生命館」。コリント様式の列柱が美しいこの建築は、設計を岡田信一郎・捷五郎が、構造設計を内藤多仲が手がけており、1997年には昭和の建造物としては初めて国の重要文化財に指定されている。戦時中の金属回収や東京大空襲、GHQによる接収など、数々の歴史を刻んできた建築でもある。

皇居側から見た明治生命館
明治生命館が入る「MY PLAZA」は丸の内仲通りに面している
静嘉堂文庫美術館が入るのは明治生命館の1階

 岩崎彌之助は、静嘉堂創設当時から丸の内というビジネス街にミュージアムをつくる構想を抱いていた。静嘉堂文@丸の内の開館は、じつに130年の時を経て、その夢が実現したかたちになる。

 同館の河野元昭館長は、これからの静嘉堂文庫美術館についてこう語っている。「静嘉堂文@丸の内という明るくライトな愛称が、これから我々が進むべき道を象徴している。理想的な美術館というのは、質(いい作品を並べること)と量(多くの人に見てもらうこと)が伴っていることが必要。丸の内の地で、より多くの方々に関心をもってもらいたい」。新天地でこれまで以上に幅広い客層を取り込み、日本・東洋美術の粋を積極的に伝えていこうとする強い意志が伺える。

2階から見たホワイエ(許可を得て撮影)

重要文化財を生かした美術館設計

 美術館が位置するのは明治生命館の1階。以前はラウンジとして使用されていた部分だ。改修工事と設計は、明治生命館の建設・大規模改修工事を手がけてきた竹中工務店が担っており、竣工当時の雰囲気を生かした落ち着いたデザインとなっている。

 美術館の中心となるのは、ガラス天井が特徴的な吹き抜けのホワイエ。この空間には竹中工務店が静嘉堂文庫美術館のためにデザインしたソファーが空間のグリッドにリンクするたちで配置されており、ゆったりとくつろぐことができる。

ホワイエから見た2階および天井部分
一部作品もホワイエに展示。手前は《有田窯 色絵花卉丸文菊形皿(古伊万里 金襴手様式)》(江戸時代 18世紀)
館内マップ

 展示室はホワイエを囲むように4つ配置された。ホワイエを中心に自由に行き来できる設計となっており、展示室面積は世田谷時代の約1.5倍ほどになっている。展示室内は茶系のカーペットと黒い壁面、そして大理石の柱からなり、非常に落ち着いた印象を与える。展示ケースは低反射ガラスを使用しているため、美術品がより際立つ空間だ。

もっとも面積の大きいギャラリー3
ギャラリー2には竣工当時のエレベーターが残されている(使用不可)
エレベーターのメーターも時代を感じさせるデザイン

開館記念展で国宝7件を全点展示

 新たな静嘉堂文庫美術館のこけら落としは、「響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―」(10月1日〜12月18日)。静嘉堂が所蔵する7件すべての国宝のほか、茶道具、琳派作品、中国書画、陶磁器、刀剣などの選りすぐりの名品が4つのテーマで紹介される、「美術館の自己紹介」とも言える展覧会だ。担当学芸員は主任学芸員の長谷川祥子。

 会場は、「静嘉堂コレクションの嚆矢―岩﨑彌之助の名宝蒐集」「中国文化の粋」「金銀かがやく琳派の美」「国宝「曜変天目」を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」の4章で構成。

 「静嘉堂コレクションの嚆矢―岩﨑彌之助の名宝蒐集」では静嘉堂創設者の岩﨑彌之助が高輪邸の応接室に飾ったという菅原直之助の能刺繍《翁》(1907頃)のほか、茶道具で最初の蒐集品とされる《唐物茄子茶入 付藻茄子・松本茄子》(南宋〜元時代 13〜14世紀)、そして国宝《倭漢朗詠抄 太田切》(平安時代 11世紀)など、まさに「名宝」が来館者を迎える。

「静嘉堂コレクションの嚆矢―岩﨑彌之助の名宝蒐集」展示風景より、左が菅原直之助の能刺繍《翁》
静嘉堂文庫美術館でも人気の《唐物茄子茶入 付藻茄子》(南宋〜元時代 13〜14世紀)

 続く「中国文化の粋」では、彌之助・小彌太父子のコレクションから、書画や工芸などの中国美術を展示。国宝の伝 馬遠《風雨山水図》(南宋時代 13世紀)や、同じく国宝の因陀羅筆・楚石梵琦題詩の《禅機図断簡 智常禅師図》(元時代 14世紀)などが並ぶ。

ギャラリー2の「中国文化の粋」展示風景より
ギャラリー2の「中国文化の粋」展示風景より
「中国文化の粋」展示風景より、因陀羅筆・楚石梵琦題詩の国宝《禅機図断簡 智常禅師図》(元時代 14世紀)
「中国文化の粋」展示風景より、重要文化財《建窯 油滴天目》(南宋時代 12〜13世紀)

 第3章「金銀かがく琳派の美」でもっとも存在感を放つのは、俵屋宗達による国宝《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)だろう。メトロポリタン美術館での展示歴もあるこの作品は、岩崎彌之助が醍醐寺復興の寄進をしたことから、その礼として譲り受けたとされている。

ギャラリー3の「金銀かがく琳派の美」展示風景より
「金銀かがく琳派の美」展示風景より、国宝の俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)
「金銀かがく琳派の美」展示風景より、重要文化財《秋草蒔絵絵謡本箪笥》(江戸時代 17世紀)
「金銀かがく琳派の美」展示風景より、酒井抱一《絵手鑑》(江戸時代 19世紀)
「金銀かがく琳派の美」展示風景より、手前から原羊遊斎《八重菊蒔絵大棗》(1817)、《片輪車螺鈿蒔絵大棗》(1829)、《桐紋蒔絵茶杓》(江戸時代19世紀)
ギャラリー3の展示風景より。奥に見えるアーチは竣工当時のもの

 第4章「国宝『曜変天目』を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」は、その名の通り、静嘉堂文庫美術館を代表する所蔵品である国宝《曜変天目》が目玉だ。1934年に岩崎小彌太の所蔵品となったこの名宝。静嘉堂文庫美術館ではこの移転・開館を機に《曜変天目》専用のケースを制作。茶碗のサイズにピタリとあったスポットライトが、その輝きを一層際立たせている。

「国宝『曜変天目』を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」展示風景より
展示風景より、国宝《曜変天目(稲葉天目)》(南宋時代 12~13世紀)
「国宝『曜変天目』を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」展示風景より、国宝の手掻包永《太刀 銘 包永  附:菊桐紋糸巻太刀拵》(鎌倉時代 13世紀、拵:江戸時代 18〜19世紀)

 なお静嘉堂文庫美術館では今年度、通年で開館記念展を開催。「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅱ 初春を祝う―七福うさぎがやってくる!」(2023年1月2日~2月4日)、「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅲ お雛さま―岩﨑小彌太邸へようこそ」(23年2月18日~3月26日)が予定されている。

ミュージアムショップも充実

 美術館で忘れてはならないのがミュージアムショップだ。静嘉堂文庫美術館のショップは、美術館とは別のエントランスから入るかたちとなっており、ここだけを訪れることもできる。

ミュージアムショップのエントランス
ミュージアムショップの内部

 これまで以上に多くのグッズや書籍が並ぶなか、もっとも目を引くのが国宝《曜変天目》をぬいぐるみ化した「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」(5800円)だ。曜変天目をぬいぐるみにするというなんともユニークな発想にまず驚かさせるが、その出来栄えもなかなかのもの。実物を細かく撮影し、それをもとにつくられたというこの商品は、釉の微妙なラインも再現するなど、細かなディテールが光る。

 また三菱一号館美術館で開催された「三菱の至宝」展でも人気を博したTシャツは、新デザインも追加され4種類がラインナップ。日本の伝統色から選ばれた4色展開となっている。

《曜変天目》のぬいぐるみ
Tシャツ4種類
ミュージアムの内部

 なお、静嘉堂文庫美術館が位置する丸の内周辺には、徒歩圏内に三菱一号館美術館、出光美術館、インターメディアテク、東京ステーションギャラリー、アーティゾン美術館など個性的な美術館が集まっている。これを機会に、丸の内エリアの美術館巡りをしてみてはいかがだろうか(詳細は「はじめての美術館ガイド丸の内・京橋編」をチェック)。