東京・上野の東京国立博物館で、京都・浄瑠璃寺の九体阿弥陀修理完成を記念した特別展「京都・南山城の仏像」が開幕した。会期は11月12日まで。
南山城(みなみやましろ)は京都の最南部。奈良県と隣接し、木津川に育まれた風光明媚な土地だ。京都と奈良のふたつの都の影響を受けてきた南山城には奈良・平安時代からの古刹が多く、仏像の最盛期とされる平安時代の仏像の傑作が多く伝わってきた。本展はこの南山城の仏像の優品が一堂に会する展覧会だ。
本展は南山城の浄瑠璃寺にある九体阿弥陀の修理が完成した記念展でもある。九体阿弥陀は平安時代に貴族のあいだで流行した様式で、9通りあるとされる極楽往生の仕方にちなみ、9体の阿弥陀如来像を造像してひとつの堂宇に安置するものだ。当時の彫像・堂宇が唯一現存しているのが浄瑠璃寺となる。
この九体阿弥陀は2018年度から5年をかけて修理されたが、本展ではそのうちの一体となる《阿弥陀如来坐像》が展示されている。この《阿弥陀如来坐像》は12世紀、平安時代に制作されたもので、浄瑠璃寺の本堂で横一列に並ぶ9体のうち向かって右端に安置される一体が東京で公開される貴重な機会となった。
平安時代の仏像の変遷を一挙に見られるのも本展の特徴のひとつとなっている。例えば、9世紀の奈良時代に制作された海住山寺に伝わる《十一面観音菩薩立像》は、後の時代のものと比べると目が細く険しい表情をしており、また目鼻立ちもくっきりとしているため、唐の影響が強く見られる。失われることが多い頭上面もすべてそろっている貴重な仏像だ。
いっぽう禅定寺に伝わる、高さ約3メートルを誇る巨像《十一面観音菩薩立像》(11世紀)は、太い鼻筋と肉づきのより輪郭をもち、柔らかく穏やかな顔立ちをしている。日本的な和様彫刻へと変化していく途上にある時代を代表する像といえる。
貴族文化が最盛期を迎えた11〜12世紀につくられたとされる《広目天立像(四天王のうち)》は、浄瑠璃寺本堂の九体阿弥陀如来像をめぐる四隅に置かれた四天王像のひとつ。表面の細やかな文様がまだ残っており、同時代の仏像の貴重な例となっている。文様のなかには大ぶりな植物の図案もあり、京都よりも奈良の文化の系譜を強く感じるられるはずだ。
ほかにも、日本の文殊菩薩の古例として見ることができる禅定寺の《文殊菩薩騎獅像》や、弁髪のない頭部やそのユニークな表情から不動明王像としては得意な存在とされる神童寺の《不動明王立像》(12世紀)などを展示。平安時代の仏像の粋を一堂にて見ることができる貴重な展覧会となっている。