さっそく森のなかに足を踏み入れ、作品を見ていこう。入口から約45〜60分ほどかけて森を抜け棚田跡に向かうのだが、そのあいだにいくつもの作品が展開されている。一部ピックアップして紹介したい。
例えば、一番最初に体験することができる《具象と抽象》では、森の木々のなかにグリッドが現れる。ここに人が入っていくことで線が集合し、森のレイヤー感が際立つ空間に。雑多な木々による具象の森とグリッドで仕切られた抽象の森が交互に広がる作品だ。
《海が立ち上がる時花が咲く - 五浦の海 》は、五浦の海岸で発生する波の満ち引きにあわせて花が咲くような演出が生み出される作品。季節や天気によって大きく変わる波の表情が夜でも楽しめるだろう。
この森でも一番大きいとされるタブノキには淡い光を放つ球体が設置。森は木と木が菌根菌のネットワークでつながりあい、互いを認識し、栄養を送りあっている、といった研究をもとに、鑑賞者からもっとも近い球体が人に反応し、作品全体と呼応する仕掛けとなっている。まるで木や森が生きているかのように穏やかに明滅するのが特徴だ。
人や森の動物の動きを感知して光や音を生み出す《幽谷の呼応する森》。一面の緑に包まれる普段の山歩きももちろん面白いが、移り変わる色や響く音によって、より森のなかの生命に着目することができるだろう。
森を抜けるとこのミュージアムのメインでもある《隠田跡》が一面に広がっている。森の谷に突如として現れる棚田。ここでかつて人の営みがどのように行われていたかなどについて思いを馳せながら作品を鑑賞していただきたい。
ちなみに、これらの作品には山歩きに適したスニーカーや、虫除けのための上下長袖が必須だろう。足元も暗いので作品に気を取られて転ばないようにだけ注意したいところだ。