最後の展示室では、人間の存在をテーマにした一連の作品が紹介。イラク戦争の時期につくられた《戦争を見るスフィンクスⅡ》(2006)は、舟越の作品のなかでは珍しく、感情をあらわにするもの。なぜ人間同士が互いに攻撃することを訴えており、両性具有の身体も人間や戦争の区別を問いかけている。
画面全体の赤色が特徴的なドローイング《DR1002》(2008)は、傷ついた人のように見えるが、苦境にあっても立ち上がる人間の姿を読みとることもできる。そのほか、東日本大震災を契機に制作された《海にとどく手》(2016)や、「海の水が自分の中に入ってくる」という思いを表現した《青い体を船がゆく》(2021)、実験的な造形を試みた《青の書》(2017)など、多様な表現を見ることができる。
展覧会の最後、最初の展示室の反対側では、舟越の絶筆と言ってもいい、病室の窓から見える雲に触発されて描かれた「立てかけ風景画」が展示。舟越がヨーグルトのカップでつくった台に立てかけ眺めていた作品は、遺族からの指示により拡大した映像でも展示されており、森の中に浮かんでいる風景を体感してほしい。
なお、本展の関連企画として「彫刻の森美術館名作コレクション+⾈越桂選」展も12⽉1⽇まで開催中。同館のコレクションの中から、メダルド・ロッソやボッチオーニ、荻原守衛、朝倉文夫などの近代彫刻の名品や、ブランクーシ、ジャコメッティ、舟越保武、清水九兵衛など20世紀を代表する彫刻家の作品が展示。加えて、三⽊俊治、三沢厚彦、杉⼾洋、名和晃平、保井智貴といった⾈越とゆかりのある現代作家の作品も紹介されており、⾈越、三沢、杉⼾と画家・⼩林正⼈の4人が共同制作した《オカピのいる場所》も特別展示されている。
舟越の遺志を継ぎ、その作品を通じて人間の存在や日常の美しさなどを再認識する本展。生涯を通じて人間の存在を肯定し、その多様性や矛盾、孤独に目を向けて制作された様々な作品をぜひ会場で堪能してほしい。