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「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人―たとえば、『も』を何百回と書く。」(滋賀県立美術館)開幕レポート

滋賀県立美術館で、開館40周年を記念した企画展「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人─たとえば、『も』を何百回と書く。」がスタートした。会期は6月23日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景、齋藤裕一《ドラえもん》(2003〜06)

 滋賀・大津の滋賀県立美術館で、開館40周年を記念した企画展「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人─たとえば、『も』を何百回と書く。」がスタートした。会期は6月23日まで。担当学芸員は山田創(滋賀県立美術館 学芸員)。

 アール・ブリュットは、日本語で「生(なま)の芸術」の意。1940年代にフランスの画家ジャン・デュビュッフェ(1901~85)が、精神障害者や独学のつくり手などの作品に心を打たれ提唱した美術の概念だ。2010年にはパリの美術館で「アール・ブリュット・ジャポネ(日本のアール・ブリュット)」展が開催。それがきっかけのひとつとなり、日本国内においてもその関心が高まっていった。いっぽうで、福祉的な背景を持つつくり手が多いアール・ブリュットは、異能による「障害者アート」だという誤解を受けがちだ。

 本展は、そのような線引きを取り払いながら、つくり手たちによる創作欲求みなぎる作品にフォーカスするものだ。また、本展は昨年に日本財団より日本のアール・ブリュットのつくり手45人による作品が寄贈されたことをきっかけとして企画されており、会場には約450点の作品が全5章構成で紹介されている。

 2016年よりアール・ブリュットの収集を方針としてきた同館館長の保坂健二朗は今回の企画の経緯についてこう述べた。「アール・ブリュットはアートの既存概念に対して見直しを促すものでもあり、世界の美術館がその作品に注目・収集し始めてる。滋賀県は戦後、様々な場所で福祉施設の取り組みを紹介する場があり、そういった土壌が本館の収集方針につながっている。昨年の日本財団からの寄贈を受けて、現在、当館の収蔵品の約28パーセントがアール・ブリュット(寄託作品を含み、817件)となった。今後の収集活動にもぜひ注目してほしい」。

 また、本展を担当した学芸員の山田は、展示の仕立てについて次のように語った。「今回、作家のことを『つくり手』と表記している。自身のことをアーティストであったり、つくるものを作品だと思っていない人もいるため、呼び方について立ち止まって考えた。これがある意味、本展のメッセージにもなっている。つくり手たちの創作欲求が表れている作品を展示することから、タイトルを『つくる冒険』とした。彼らはアートという言葉がなくてもつくり続けるだろう。どうしてこのように描いたのだろうか?と考えてながら鑑賞してみるのもおすすめだ」。

第1章「色と形をおいかけて」展示風景より

 第1章「色と形をおいかけて」では、個性あふれるなカラーリングや造形力を持つつくり手の作品を展示している。例えば北海道出身の松本寛庸は、様々なパターンの繰り返しを色分けしながら表現。小さなパターンが細胞のように集積し、独自の画面をつくりあげている。それに対して兵庫県出身で同地の福祉施設「すずかけ作業所」に所属する舛次崇は、大胆なフォルムと色使いが印象的だ。

展示風景より、松本寛庸による作品群
展示風景より、舛次崇よる作品群

 第2章では、日本のアール・ブリュットにおいてよく取り上げられる「繰り返し」に着目している。とことん同じことを繰り返す行為は障害の特性とも取られるかもしれないが、それがひとつの表現として昇華されている点がポイントだ。

展示風景より、伊藤峰尾による作品群。練習として書き連ねた自身の名前が、独自のリズムを生み出し新たな表情となっている
展示風景、齋藤裕一《ドラえもん》(2003〜06)。書き連ねた文字が積層し、抽象的なイメージをつくり出している。文字はテレビ番組から影響を受けたもので、「も」を書き連ねた作品は「ドラえもん」だという

 また、第3章「冒険にでる理由」では、つくり手の4人の現在を追う映像が上映されている。そこからは、作品だけでは伝わらないバックグラウンドや、創作スタイルに変化があったことも見受けられる。

第4章「社会の密林へ」展示風景より。映像は横浜で「帽子おじさん」と呼ばれている宮間英次郎さん

 日本のアール・ブリュットは施設や病院といった空間のみで生み出されるものではない。第4章「社会の密林へ」では、社会と接続しながらつくられた創作物の事例を数多く紹介している。

展示風景より、水谷伸郎による作品群。紙でつくられた電車は内部の座席まで再現されている
展示風景より、高橋和彦による作品群
展示風景より、高橋和彦による作品(部分)
展示風景より、石野敬祐の作品群。ペーパークラフトで様々な女の子が立体的につくられており、誰ひとりとして同じ容姿や服装の子はいない。石野さんは現在、漢字を立体化した作品を制作しているという

 第5章「心の最果てへ」では、精神科病院で長く人生を過ごし、たくさんの作品を生み出し続けてきたつくり手たちの作品を展示している。学芸員の山田は、本展の構成を考える際に「精神疾患のある方がつくり出した脅迫性ばかりにクローズしない」ことを念頭に置いていたという。それは、知的障害による孤立や圧迫感は、自己の問題のみならず、社会環境の問題である可能性も考えられるからだ。

展示風景より、山崎健一による作品群。季節労働者として土木建設の仕事をしていた山崎は、その経験から製図のような空想作品を数多く展開している
展示風景より、澤田真一による作品群。日本のアール・ブリュットのなかでもとくに知られている澤田は、あたかも異なる文化圏でつくられるような彫刻作品を生み出している

 会場外では、本展の展示作品から着想を得たというワークショップエリアや、展示室内で「も」さんを探すといった別角度から展示を楽しむ仕掛けも用意されている。多様で豊かな表現の数々に触れあいながら、ゆったりとした時間を過ごしてみるのもいいだろう。

ワークショップエリア。チケットがなくても体験が可能

編集部

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