4月11日、岐阜・高山市の会員制ホテル「サンクチュアリコート高山 アートギャラリーリゾート」内に、飛驒高山美術館が開館した。
旧飛驒高山美術館は敷地にホテルを建設する計画のため、2020年5月に閉館。新美術館は新たに建設されたホテル「サンクチュアリコート高山 アートギャラリーリゾート」内に誕生した。旧館の約850点におよぶ美術品コレクションを引き継ぎ、エミール・ガレやルネ・ラリックなどのコレクションを展示。ホテル宿泊者以外の一般利用も可能となっている。館内の様子を紹介したい。
高山駅からバスで10分ほどの同館は、ホテルの入口とは別に美術館来場者向けの入口が用意されている。美術館のロビーで来場者を迎えるのが、ラリックによる《シャンゼリゼ・ショッピング・アーケイドの噴水》(1926)だ。本品は制作当時、パリ・シャンゼリゼのショッピングアーケードに二対で設置されていた噴水であり、対となっていた噴水の所在は現在は不明。当時の華やかなパリの姿を伝える貴重な存在だ。
飛驒高山美術館はエントランスロビーから奥に向かって5つの展示室が連なるワンフロア構造となっている。最初の展示室1「ガレの杜〜アール・ヌーヴォー」は、北アルプスの朝霞からインスピレーションを受けた展示室だ。
本展示室には紫色を基調としたライティングが施され、ガレをはじめとしたガラス作品が浮かび上がるような演出がされている。中央奥にはガレの最高傑作のひとつとされる花器《フランスの薔薇》(1900頃)が、左官職人・挾土秀平による蝶と風をイメージした壁面をバックに鎮座。本作は真紅のバラのつぼみを卓越した彫刻技術で表現しており、その造形美を間近で見ることができる。
なお、本館のガラス作品のための展示ケースは、ダウンライト、上部からのスポットライト、展示台内部のアッパーライトを完備しており、各作品に合わせた調光が可能。各作品のガラスの表情を余すことなく伝えられるよう調整されている。
展示室2「うつろいの間」は、季節や気温、時間によって照明や音響が変化、さらに季節によって香りも変化する展示室となっている。ここでは中央の円形ソファーに座りアール・ヌーヴォーの名品を鑑賞できる。
本展示室で紹介されているのはドーム兄弟によるバラをモチーフとした《野薔薇紋ランプ》(1890年代)や、ティファニー創業者の子息であるルイス・C・ティファニーによる睡蓮をイメージした《18灯リリーランプ》(1899-1920)など。有機的な自然物のフォルムを巧みに製品へと落とし込んだ名品がそろう。
展示室3「アール・デコ」は飛騨高山の星空をイメージした展示室だ。アール・ヌーヴォーの次に起こったムーブメント、アール・デコの時代の、ルネ・ラリックをはじめとするガラス工芸品が、空間に浮遊するかのように展示されている。
ここでは巧みな意匠を量産化することで人気を博したラリックによる香水瓶などが並ぶ。さらに、今後は瓶に残った香水の香りを楽しめる企画も予定されているという。
展示室4「アートラウンジ」はベンチが設置されたくつろぎの空間となっている。中央のラウンジスペースにガラス作品を展示するほか、ガレやルイ・マジョレルによる装飾芸術家具、アルフォンス・ミュシャが手がけたポスターなどを見ることが可能だ。
展示室中央の天井にはルイ・マジョレルとドーム兄弟の合作である《ブロンズとガラスのシャンデリア》(1903頃)が設置されており、その下のソファーに座りながらアール・ヌーヴォーやアール・デコの歴史についての映像や、書籍資料を見ることができる。
また、本展示室ではガレによる家具に注目したい。ジャポニスムの趣味が全面に現れたしつらえの家具は、象嵌技法によって図柄を表すという高度な技術が使われており、展示室ではその造形美を間近で見ることができる。これも、本館の見どころのひとつといえるだろう。
最後となる展示室5「光のギャラリー」は、自然光が入る展示室で、光の変化と作品の調和を楽しむことができる。
ここでは現代ガラス作家である藤田喬平や石井康治などの作品を展示することで、20世紀から今世紀にかけてのガラス工芸の歴史を接続することを試みていてる。また、スコットランドのアールヌーボー期の作家、チャールズ・レニー・マッキントッシュのレリーフ《ウイロー・パネル》もこの部屋で見ることが可能だ。なお、本展示室では現代ガラスを展示替えをしつつ紹介していく予定だ。
世界中から多くの観光客が訪れる飛騨高山における、新たなアートスポットとなった飛驒高山美術館。斬新な演出によって基調なコレクションを高めている本館のこれからに期待が集まりそうだ。