1950年代から現在に至るまで70年以上にわたって第一線で活躍してきたイラストレーター、グラフィックデザイナー・宇野亞喜良(1934〜)。その過去最大規模の展覧会「宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO」が、東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。担当学芸員は瀧上華(東京オペラシティ アートギャラリー キュレーター)。
宇野は1934年愛知県名古屋市生まれ。50年代から企業広告や演劇ポスター、絵本を手がけるようになり、イラストレーターとしての活動を開始。その創作は、イラストレーション、ポスター、絵本だけでなく、書籍、アニメーション映画、絵画、舞台美術など多岐にわたり、現在も活動の範囲を拡大しながら精力的に創作を続けている。
本展は、2010年に愛知県の刈谷市美術館で開催された宇野の個展以来、14年ぶりの大型個展。東京では初めて宇野の仕事を振り返る機会となる本展では、刈谷市美術館や宇野事務所の協力を得て、活動を始めた最初期の作品から2023年の最新作に至るまで900点を超える作品が集まり、宇野の膨大な仕事の全貌に迫る。
東京オペラシティ アートギャラリーのチーフ・キュレーターである天野太郎は本展の開幕にあたり、宇野と、同じく1930年代生まれで今年同館にて個展が予定されている髙田賢三(1939〜2020)、松谷武判(1937〜)は第二次世界大戦後にキャリアをスタートした「戦後の第一世代」だとし、次のように評価している。「この3人はもちろん分野が違うが、非常にユニークで独自で、しかも前の世代とは違う新しいムーブメントを起こしたと言える」。
また瀧上は宇野についてこう語っている。「宇野さんは、幅広いジャンル、そして様々なメディアにわたってお仕事をされているので、皆さんはどこかで宇野さんのお仕事を目にしたことがあるのではないかと思う。雑誌の挿絵や書籍の装丁、絵本、ポスター、そして最近は様々なアーティストとコラボレーションを行っているいっぽう、宇野さんのこれまでのお仕事をまとめてご紹介する機会するはじつはそれほど多くなかった」。
12章構成の本展では、概ね年代順に沿って宇野の多岐にわたる仕事を12のトピックに分けて紹介。「プロローグ 名古屋時代」から「グラフィックデザイナー 宇野亞喜良」「企業広告」「アニメーション映画」「ポスター」「絵本・児童書」「版画集・作品集」「新聞・雑誌」「書籍」「絵画・立体作品」「舞台美術」、そして最終章の「近作・新作」まで、つねに進化し続ける宇野の創作をじっくり見ることができる。
例えば、プロローグでは15歳に描かれた自画像や、学生時代のスケッチやクロッキーなど創作初期の作品が紹介。第2章「グラフィックデザイナー 宇野亞喜良」では、和田誠とともに一等を獲得した興和新薬の蛙のイラストレーションや、カルピス食品工業の新聞広告などの貴重な原画、第3章「企業広告」では、旭化成工業「カシミロン」を題材とするポスターや化粧品会社マックスファクターの広告シリーズなどの作品が色褪せない魅力を放っている。
第4章「アニメーション映画」では、宇野が1960年代に手がけた『白い祭』『お前とわたし』『午砲』という3本の短編アニメーション映画が上映。そのバリエーション豊かな絵本や児童書、自分の表現スタイルを見直すための版画集や作品集、新聞や雑誌、書籍の装幀の仕事、そして立体作品などは、続く第6章〜第10章で紹介されている。
瀧上は、「これまであまり展示する機会がなかった宇野の舞台美術の仕事を紹介しているのが本展のひとつの特徴だ」と話す。Project Nyx「星の王子さま」をはじめ、宇野が描いた舞台や衣装の原画、実際に制作にも携わった大道具や小道具、人形、衣装などが第11章で一堂に会する。また最終章では、宇野が手がけたSHAKALABBITSや、BUCK-TICK、椎名林檎らのポスターやグッズ、様々なクリエイターや企業とのコラボレーションが展示され、宇野の創作の現在地を垣間見ることができる。
「もうひとつの大きな見どころとして、貴重な原画類を数多く展示している」(瀧上)。宇野の繊細で華麗なデッサンや、校正紙に書き込まれた細やかな指示などを通じ、その確かな描写力やデザインへのこだわりを身近に感じることができる。
またチーフ・キュレーターの天野は、宇野が現役で制作を続けているため、本展は「回顧展ではない」と強調する。時代を超えて多種多彩な作品を生み出してきた宇野の華麗な創作世界をぜひ会場にて目撃してほしい。