全世代が知る国民的イラストレーターと言っても過言ではない和田誠(1936〜2019)。その没後初となる回顧展であり、仕事の全貌に迫る初めての試みである「和田誠展」が東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。
本展では、「似顔絵」「絵本 谷川俊太郎との絵本」「パロディ」「ライトパブリシティの仕事」「装丁―作家との仕事」など、和田の輪郭をとらえるうえで欠くことのできない約30のトピックスやその代表的な仕事を中心としたビジュアル年表を軸に、およそ2800点の作品や資料を紹介している。
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展覧会の担当学芸員・福島直は、「和田さんは、ポスターやアニメーション、音楽、映画などあらゆる分野で活躍されていた方なので、テーマを絞った展覧会はいままで多かった」としつつ、今回の展覧会については「和田さんがどれだけの仕事を生涯にされたのかということをテーマに限定することなく、時系列を追うとともにその仕事が分かるような30のトピックを立て、重層的な展示を目指して企画した」と話している。
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会場の入口付近では、和田の「似顔絵」を紹介。小学4年生のときに似顔絵を意識し、学生時代は友人や先生など身近な人物を入念に描いた和田。本展では、フランツ・カフカやボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、フリーダ・カーロ、パブロ・ピカソ、司馬遼太郎、三島由紀夫、手塚治虫など様々なジャンルの著名人の似顔絵が並ぶ。
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「和田誠になるまで」コーナーでは、4歳の頃に描いた絵物語をはじめ、学生時代に描いたスケッチや絵日記、漫画、そして大学3年生のときに制作し、当時デザイナーの登竜門と言われた日宣美(日本宣伝美術会)賞を受賞した手描きのポスターなど、貴重な資料を展示。後にデザイナーとしての道を歩んだ和田の制作の原点を知ることができる。
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大学卒業後に入社した広告制作会社ライトパブリシティで制作した、和田の代表作のひとつであるたばこ「ハイライト」の版下や、たばこ「ピース」の広告、キヤノンの雑誌・新聞広告などの仕事を確認できるのが「ライトパブリシティの時代」コーナー。「絵本」コーナーでは、長年携わった谷川俊太郎や星新一との絵本や、高橋睦郎や谷川俊太郎などの作家、詩人に文章を依頼して自ら出版した私家版絵本が展示されている。
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また、和田は東芝などのテレビでコマーシャルや番組のタイトル、NHKで子供番組のアニメーションも制作。映画ファンとして新宿日活名画座のポスターを手がけるだけでなく、『麻雀放浪記』『快盗ルビイ』『怖がる人々』などの映画も監督した。そのほか、レコードやビデオジャケット、コンサートや演劇のポスター、丸谷才一や村上春樹などの作家の装丁、そして立体作品、落語や演劇の台本、訳詞や作曲など、ジャンルの垣根を超えた分野で豊かな広がりを見せた。
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なお本展では、和田が1977年から40年以上にわたって描いた『週刊文春』2000号分の表紙が一気に展示。加えて原画や色指定紙、モチーフにしたオブジェなども紹介されている。
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「展覧会としてはかなり多くの作品を紹介しているが、それでも(和田さんの)全貌を把握しきれていないというのが現状だ」と福島は話す。「すこしでも、和田さんの仕事の量と質、その種類の多さや博識さを感じてもらえたらと思っている」と期待を寄せている。
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