平安時代、奥州藤原氏の初代藤原清衡によって創建された岩手・平泉の国宝・中尊寺金色堂。その建立900年を記念し、東京国立博物館で建立900年 特別展「中尊寺金色堂」が開幕した。会期は4月14日まで。担当学芸員は東京国立博物館学芸研究部東洋室主任研究員の児島大輔。
中尊寺金色堂は天治元年(1124)、藤原清衡(1056〜1128)によって建立された東北地方現存最古の建造物だ。建物の内外は金色で飾られ、螺鈿蒔絵の漆工技法を駆使した装飾が施された絢爛豪華な姿を持つ。本展ではこの金色堂の中央壇の国宝仏像すべてを公開するとともに、金色堂の内部に入り込むような8K映像を巨大なスクリーンで上映。ほぼすべてが国宝または重要文化財となる約50点の文化財を展示している。
会場入口のスクリーンでは、原寸大の金色堂を超高精細の8KCGで再現した映像を上映。実地ではガラス越しにしか見られない金色堂の内部を仔細に見ることができる。内外を覆う金箔や螺鈿をはじめとする漆工や金工の繊細な造形などから、奥州藤原氏の栄華を感じることができるだろう。
金色堂の特筆すべきところはその豪華絢爛さだけではない。3つの須弥壇内に奥州藤原氏一族の遺体を安置するという他に類を見ない特色を持っており、会場では初代清衡が安置されていた金箔押の木棺や、遺体がつけていた装飾具なども見ることができる。
展示室の中央に座するのは、国宝《阿弥陀如来坐像》(12世紀)だ。穏やかな顔立ちや、なだらかな肉体表現などは同時期の京都の仏像と遜色がない。それどころか、後頭部の螺髪の刻み方や、右肩にかかる衣の別材化といった先進的な造形と技法が用いられており、当時の平泉の先端性が感じられる。
《阿弥陀如来坐像》の両端には《観音菩薩立像》と《勢至菩薩立像》(ともに12世紀)を展示。どちらも当時の一流仏師である円勢周辺の仏師の手によるものと想像されるという。京都からはるか離れた平泉とネットワークを築いていた清衡の財力の現れと言える。
《阿弥陀如来坐像》《観音菩薩立像》《勢至菩薩立像》の三尊像の両脇には、左右3体ずつ、計6体の《地蔵菩薩立像》(12世紀)を展示。現地では縦に並んでいるが、本展では横並びに展示されており、三尊像とはまた異なる頭部の小さい独特のプロポーションが確認しやすくなっている。
現地では三尊像と地蔵菩薩像のさらに下壇に配置されている《持国天立像》と《増長天立像》(ともに12世紀)も見ることができる。同時代のほか地域では見られないような激しい動きがつけられており、こちらも《阿弥陀如来坐像》と同様に京都ではつくりえない先進性を感じられるという。なお、本作を参照して後年につくられたと思われる像も見つかっており、平泉が仏像の流行の発信地でもあったことがわかる。
ほかにも会場では諸仏が用いていたと思われる台座や光背の残欠や使われていた仏具、経典なども展示され、金色堂の全容を知るに足る貴重な品々がそろう。
現地よりもはるかに間近で仏像の造形や表情を見ることができる本展。中尊寺金色堂を訪れたことがない人はもちろん、来訪経験がある人もよりその実態に近づくことができる展覧会と言えるだろう。