「サムライ、浮世絵師になる!鳥文斎栄之展」(千葉市美術館/1月6日〜3月3日)
鳥文斎栄之(ちょうぶんさい・えいし、1756〜1829)は、旗本出身という異色の出自をもち、美人画のみならず幅広い画題で人気を得た浮世絵師だ。浮世絵の黄金期とも称される天明〜寛政期(1781〜1801)に、同時代の喜多川歌麿(?〜1806)と拮抗して活躍した。
田沼意次(1719〜88)が老中を辞した時代の変わり目のころ、栄之は本格的に浮世絵師として活躍するようになり、やがて武士の身分を離れる。当時の錦絵(浮世絵版画)は華やかな展開期にあり、栄之も浮世絵師として数多くの錦絵を制作、長身で楚々とした独自の美人画様式を確立、豪華な続絵を多く手がけた。寛政12年(1800)頃には、後桜町上皇の御文庫に隅田川の図を描いた作品が納められたというエピソードも伝わり、栄之自身の家柄ゆえか、とくに上流階級や知識人などから愛され、名声を得たことが知られている。
重要な浮世絵師のひとりでありながら、明治時代には多くの作品が海外に流出したため、今日国内で栄之の全貌を知ることが難しい栄之。世界初の栄之展となる本展では、ボストン美術館、大英博物館からの里帰り品を含め、錦絵および肉筆画の名品を国内外から集め、初期の様相から晩年に至るまで、栄之の画業を総覧しその魅力を紹介する。
「小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ」(京都国立近代美術館/1月6日〜3月10日)
日本におけるファイバーアートのパイオニアである小林正和(1944〜2004)。その生誕80年・没後20年となる2024年に、初となる回顧展「開館60周年記念 小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ」が京都国立近代美術館で開催される。
小林は、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)で漆工を学んだのち、川島織物に就職(研究所考案部)してファブリック・デザインに従事。川島織物在職時の「1本の糸との出会い」を起点に、糸を「垂らし」「緩め」「張り」集積させた立体造形作品を発表する。その後、第6回国際タペストリー・ビエンナーレヘの入選を皮切りに、国際テキスタイル・トリエンナーレ(ウッヂ、ポーランド)や国際テキスタイルコンペティション(京都)などでの活躍を通して、国際的に高く評価されるようになった。
1960年代以降、欧米において従来のテキスタイルの概念を超えるような作品群が数多く登場し、平面から立体、空間へと展開した作品群は「ファイバーアート」と呼ばれた。その新たな潮流は、とりわけ1962年から1995年までスイスのローザンヌで開催された国際タペストリー・ビエンナーレを中心に世界へと波及していった。この分野において日本でパイオニアとされる小林正和の、初となる回顧展だ。
「帝国ホテル2代目日本館100周年 フランク・ロイド・ライト展 世界を結ぶ建築」(パナソニック汐留美術館/1月11日〜3月10日)
アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライト(1867〜1959)が手がけた「帝国ホテル二代目本館」の落成100周年を記念した展覧会「帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」がパナソニック汐留美術館に巡回する。会期は1月11日〜3月10日。
アメリカの落水荘やグッゲンハイム美術館の建築で知られるライトは、「帝国ホテル二代目本館(現在は博物館明治村に一部移築保存)」や「自由学園明日館」も手がけており、日本にゆかりある建築家のひとりだ。とくに1923年の関東大震災の日に落成した帝国ホテル二代目本館は、その災禍を生き延びたことでも評価されている。
2012年にはフランク・ロイド・ライト財団から図面をはじめとする約5万点の資料がニューヨーク近代美術館とコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館に移管。建築のみならず、芸術、デザイン、著述、造園、教育、技術革新、都市計画といった、ライトの広範な視野と知性を明るみにする調査研究が現在も続けられている。本展ではそのような近年の研究成果を踏まえ、多様な文化と交流し先駆的な活動を展開したライトの姿を、帝国ホテルを基軸に明らかにするものとなる。
特別展「本阿弥光悦の大宇宙」(東京国立博物館 平成館/1月16日~3月10日)
本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ、1558~1637)の内面世界にせまる特別展「本阿弥光悦の大宇宙」が、東京・上野の東京国立博物館で開催される。会期は2024年1月16日~3月10日(会期中、一部作品に展示替えあり)。
「異風者(いふうもの)」(『本阿弥行状記』)と言われた光悦は、戦乱の時代のなかで、書・漆工・陶芸など様々な造形に関わり、革新的で傑出した品々を生み出してきた。
本展では、光悦による書や作陶、同じ信仰のもとに参集した工匠たちがかかわった蒔絵など、同時代の社会状況に応答した造形とを結びつける糸として、本阿弥家の信仰とともに、当時の法華町衆の社会についても注目。 造形の世界の最新研究と信仰の在り様とを照らしあわせることで、総合的に光悦を見通すものが目指される。
「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」(豊田市美術館/1月20日〜5月6日)
絵画や彫刻に加え、動物の剥製や植物標本、地図や天球儀、東洋の陶磁器など、世界中からあらゆる美しいもの、珍しいものが集められた「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」。15世紀のヨーロッパで始まったこの部屋は、美術館や博物館の原型とされ、見知らぬ広大な世界を覗き見ることができる、小さいながらも豊かな空想を刺激する空間だった。
しかし、大航海時代の始まりとともに形成されたヴンダーカンマーには、集める側と集められる側の不均衡や異文化に対する好奇のまなざしも潜んでいたとされる。グローバル化が進み、世界が加速度的に均質化していくなかで、今改めて文化や伝統とはなにか、また他文化や他民族とどう出会うかが問われている。
かつて「博物館行き」はものの終焉を意味する言葉でしたが、5人の作家たちは歴史や資料を調査・収集し、現代のテクノロジーを交えながら、ときを超えた事物の編み直しを試みる。美術館の隣に新しくできる博物館の開館に向けて開催する本展は、文化表象の実践の場としてのミュージアムの未来の可能性を探るものとなる。
建立900年 特別展「中尊寺金色堂」(東京国立博物館/1月23日〜4月14日)
国宝・中尊寺金色堂の建立900年を記念し、東京国立博物館で建立900年 特別展「中尊寺金色堂」が開催される。
中尊寺金色堂は天治元年(1124)、藤原清衡(1056〜1128)によって建立された東北地方現存最古の建造物。建物の内外は金色で飾られ、螺鈿蒔絵の漆工技法を駆使した装飾が施された絢爛豪華な姿を持つ。都から離れたこの地で栄華を極めた奥州藤原氏が眠る聖地であり、世界遺産に登録される岩手・平泉の文化遺産のシンボルとなっている。
本展は、この金色堂の中央壇の壇上に安置される11体の国宝仏像をすべて展示。寺の外で中央壇上のすべての仏像がそろって展示されるのは初めてのこととなる。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」(東京都美術館/1月27日〜4月7日)
第1回印象派展から150周年を迎える2024年、印象派がヨーロッパやアメリカへもたらした衝撃と影響をたどる展覧会「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」が、東京都美術館で開催される。
19世紀後半、大都市パリには国外からも多くの画家が集った。パリで印象派に触れ、学んだ画家たちは、新しい絵画の表現手法を自国へ持ち帰る。本展は、西洋美術の伝統を覆した印象派の革新性とその広がり、とりわけアメリカ各地で展開した印象派の諸相に注目するものだ。
アメリカ・ボストン近郊に位置するウスター美術館は、1898年の開館当初から印象派の作品を積極的に収集してきた。本展ではほとんどが初来日となる同館の印象派コレクションを中心に、日本でもよく知られるモネ、ルノワールなどフランスの印象派にくわえ、ドイツや北欧の作家、国際的に活動したサージェント、さらにはアメリカの印象派を代表するハッサムらの作品が一堂に会す機会となる。
「四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎」(サントリー美術館/1月31日〜3月24日)
東京・六本木のサントリー美術館で、茶人として名高い織田有楽斎(うらくさい)に焦点を当てた展覧会「四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎」が開催される。
有楽斎こと織田長益は天文16年(1547)に織田信秀の子、織田信長の弟として生まれた。武将として活躍し、晩年には京都・建仁寺の塔頭「正伝院」を再興、隠棲する。正伝院内に有楽斎が建てた茶室「如庵」は国宝に指定され、現在は愛知県犬山市の有楽苑内にあり、各地に如庵の写しが造られている。正伝院は明治時代に「正伝永源院」と寺名を改め、いまに至るまで有楽斎ゆかりの貴重な文化財を伝えている。
戦乱の世を信長、秀吉、家康の三天下人に仕えて時流を乗り切ったことでも知られる有楽斎。本展覧会は、2021年に400年遠忌を迎えた織田有楽斎という人物を、いま一度総合的にとらえなおそうと構成したものだ。