麻布台ヒルズのガーデンプラザAにある麻布台ヒルズギャラリー。その開館記念展として、「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」が開催されている。
麻布台ヒルズの開業にあわせて、エリアソンは新作のパブリック・アート《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(2023)を制作し、森JPタワーのオフィスロビーで公開。今回の展覧会は、このパブリック・アートで取り組んだ主題を軸に、新作インスタレーションや水彩絵画、ドローイング、立体作品などを展示するものだ。企画は片岡真実(森美術館 館長)、德山拓一(森美術館 アソシエイト・キュレーター)。
天井高約15メートルの吹き抜け空間に吊るされた、直径約3メートルにおよぶ4つの彫刻からなるパブリック・アート。その形態は、振動を表すリサジュー曲線に着想を得て、そこからダイナミックな立体に転換されたという。各作品は、菱形、凧型、三角形からなる11面体を組み合わせることでかたちづくられており、その素材にはリサイクルされた亜鉛が使われている。
作品で使われた亜鉛は、ゴミを燃やして発生する有害な煙を浄化し、そのプロセスに生まれた副産物のひとつ。エリアソンは、展示会場で上映されている片岡真実とのインタビューで次のように述べている。
「(この亜鉛は)元々は空中に放たれて、私たちの呼吸を通して私たちの肺に入っていくものだったというわけです。彫刻に使われることで大気には入らなかった。つまり、気候に影響を与えなかったのです。また、今回は私たちの呼吸器に入らずに済みました。金属は当然私たちの肺に入るべきものではありませんし、空中にあるべきものでもありません。どこかにあるべきだとすれば、彫刻作品や、元々あるべき場所であった地中にあるべきです」。
展覧会では、パブリック・アートと同じモジュールとリサイクル亜鉛を使用した新作の彫刻作品《呼吸のための空気》(2023)も披露されている。最初の展示室に出現する吊り彫刻《蛍の生物圏(マグマの流星)》(2023)は、3つの多面体が同心円状に配置されたもの。一番内側の多面体は、光が透過するときに補色に変わるガラスのフィルターでできており、中央は部分的に反射するガラスでできている。ふたつの多面体はモーターでゆっくり回転しており、一番外側の球体の多面体に組み込まれたLEDライトによって照らされると、内側は宇宙空間のように光る。また、その光は手吹きのガラス板の反射などによって展示室の壁にも投影され、カラフルで複雑な幾何学の輪郭や影が生み出される。
次の展示室では、エリアソンの2005年の作品《終わりなき研究》も展示されている。19世紀の数学者が発明した機械ハーモノグラフを使ったこの作品では、それに取り付けられた3つの振り子を動かすことで、そのうちの2つのの振り子の連結部に取り付けられたペンが、もうひとつの振り子にある木の台に置かれた紙に振り子の運動のリズムを描き出す。振り子を動かす角度や力の加減によってできあがった作品のパターンはそれぞれであり、また、鑑賞者は自らこの機械を操作して描かれたドローイングを持ち帰ることも可能だ(有料オプション)。
同じ展示室では、エリアソンがカタール・ドーハ近郊の砂漠に設置したドローイング・マシーンによって、太陽光または風力を介して制作されたドローイング作品群《太陽のドローイング》《風の記述》(いずれも2023)や、「アイス・ウォッチ」プロジェクトで使われた氷の塊を顔料のうえに置き、それが溶けることで描き出された水彩画シリーズなども紹介されている。
最後の展示室では、エリアソンが2010年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で発表した作品を再構成した《瞬間の家》が展示。天井からぶら下がって回転する水は、空中で美しい曲線を描き出す。暗闇の空間はストロボの光で瞬間的に照らされ、水の曲線は一つひとつの抽象彫刻のように空間のなかに儚い痕跡を刻む。
なお、会場に隣接する麻布台ヒルズギャラリーカフェでは、本展の会期中限定でベルリンの「スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン」とコラボレーションした特別メニューを提供。本展のために開発され、東京近郊の食材を使用したオリジナルメニューを展覧会の鑑賞後にチェックしてみてはいかがだろうか。