テート・モダン(ロンドン)で巨大な太陽を再現した《Weather Project》(2003)や、ニューヨークのイースト川に30メートル以上の人工の滝を設置した《The New York City Waterfalls》(2008)など、大規模なインスタレーション作品で知られているアーティスト、オラファー・エリアソン。その最新の作品舞台は、アラビア半島の国・カタールの砂漠だ。
作品が設置されたのは、カタール最北部のアル・ズバラとアイン・ムハンマドの遺産群の外側の砂漠。《Shadows travelling on the sea of the day》(2022)と題されたこの作品は、20個の鏡面の円形とそれぞれを支える半円形の鉄骨構造の支持体などによって構成。中央の10個の鏡面は五芒星のかたちで配列されており、イスラム文化によく見られる象徴的なシンボルに影響を受けているという。
鏡面は、それぞれ半円形の支持体をひとつの円形に映し出している。また、精密な計算によって作品を配置することで、異なる半円形の支持体も隣接する鏡面にひとつの円形として映し出されており、相互接続するようなリングの連続がつくり出されている。
鑑賞者は、鏡面の底を見上げると、砂漠の地面と自分自身を上から見下ろすような気分となる。上も下も砂に包まれ、大地と自分がつながっているような感覚が生み出されている。
今回の作品は、カタールの博物館や文化施設、遺産を管理・運営する政府機関である「カタール・ミュージアムズ(Qatar Museums)」が行っている文化活動プロジェクト「カタール・クリエイツ(Qatar Creates)」の一環として委託制作されたもの。同作とともに、レバノン系アメリカ人アーティストのシモーネ・ファタルと、ブラジル人アーティストのエルネスト・ネトによる大規模なインスタレーションの新作も近隣の砂漠で披露された。
カタール・ミュージアムズの会長であるシェイカ・アル=マヤッサ・ビン・ハマド・ビン・ハリーファ・アル=サーニーは声明文で、ユネスコの世界遺産に登録されているアル・ズバラと歴史的建造物であるアイン・ムハンマドでこれらの作品を公開することは、「私たちが文化の物理的な構造を尊重する方法の例のうちの2つに過ぎない」とし、次のように述べている。
「カタールの住民や観光客がこの地域を訪れ、これらの新しいアート・インスタレーションを体験することで、カタールの自然の風景や歴史について学び、その文化の多様性をより深く理解することができるだろう」。
なおカタール国内の公共スペースには、ダミアン・ハーストやリチャード・セラ、ウーゴ・ロンディノーネ、ウルス・フィッシャー、草間彌生などの世界的なアーティストによる約40点のパブリック・アートも点在している。今年11月20日より開催される2022年FIFAワールドカップに向け、さらに約40点のパブリック・アートの作品が新たにコミッションされ、同国全土で公開される。