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チャリティオークションで公立美術館を支援。京都市が示すファンドレイジングの新たな可能性

京都市京セラ美術館を会場に、5月16日にチャリティオークションが行われた。公立美術館を支援するためのオークションという珍しい試みを振り返る。

京都市京セラ美術館。手前が展示スペース「ザ・トライアングル」

 京都市京セラ美術館の休館日となった5月16日。新館「東山キューブ」に全国から約160名のアート愛好家が集まった。チャリティオークションに参加するためだ。

特別に設けられたチャリティオークション会場

 このチャリティオークションは、京都市京セラ美術館が2020年のリニューアル開館以来行っている新進作家の支援・育成事業「ザ・トライアングル」のためのもの(一部は京都市の姉妹都市ウクライナ・キーウ支援にも充てられる)。京都市、マツシマホールディングス、ニューアートディフュージョンから組成される実行委員会が主体となり企画された。

 ザ・トライアングルではこれまで、鬼頭健吾を皮切りに、7作家を紹介してきた。美術館が新進作家を紹介する意義は大きいが、すべて無料観覧としていることから事業自体の運営・維持は難しい状況にあるという。そんな事業の活動資金を調達し、支援するための施策として浮上したのがチャリティオークションだった。

「ザ・トライアングル」のこけら落としとなった鬼頭健吾の個展「Full Lightness」(2020)

 実行委員長を務めた京都市の山中博昭文化芸術政策監は企画に至った経緯として、「行政の財政状況にも余裕がないなか、京都の文化芸術振興に必要な若手作家支援事業を継続的に行っていくためのひとつの方策として持ち上がった」と語る。

 美術館の独立性を保つため、オークション主催に美術館は参加せず、実行委員会が美術館の会場を借りるかたちで実施。そこでの収益を美術館に寄付するという間接的な支援の枠組みが整えられた。

 公立美術館でのチャリティという「異例」のチャレンジ。「関係者間で約1年かけて議論してきた。行政ができない理由を挙げるよりも、まずはやってみることが重要。そして成果と課題、批判があればそれも踏まえながら、次の展開へとつなげていきたい。ひとつの試金石だ」(山中)。

東山キューブに並べられたチャリティのための出品作品

 オークションには杉本博司や村上隆、宮永愛子、杉戸洋、名和晃平、森村泰昌など、21ロット(予想落札価格のレンジは30万〜240万円)が揃った。実行委員会のネットワークを駆使し、趣旨に賛同したギャラリーや作家が作品を提供したという。

 約1時間にわたるオークションの結果、すべての作品が落札。活発なビットが行われた、なかでも名和晃平の作品《Rhythm#7(Velvet)》(2022)は予想落札価格220万〜240万円の2倍以上となる500万円を記録し、会場を沸かせた。

オークション風景より、名和晃平《Rhythm#7(Velvet)》

 最終的な落札総額はハンマープライスで2980万円を記録。このオークションでオークショニアを務めたTHE CLUBのマネージングディレクター・山下有佳子は「日本の美術館では珍しい試みとなった。次世代や世界で苦しむ方々のためにファンドレイズしていくことは新たな一歩」としつつ、「これだけ多くの方々が集まっていただけたのはアートの力だと思う」と振り返る。

 美術館の経済状況に明るい兆しが見えないなか、京都市の試みはファンドレイジングの新たな可能性を示したと言えるだろう。

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