デザイン大国のひとつとして知られているフィンランド。そのデザインの誕生と発展のストーリーを紐解き、今日まで続く独特のデザイン様式を探る展覧会「ザ・フィンランドデザイン展 ― 自然が宿るライフスタイル」が、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開幕した。
本展では、ヘルシンキ市立美術館監修のもと、コレクション・カッコネンやタンペレ市立歴史博物館、フィンランド・デザイン・ミュージアムなど、フィンランド各地の貴重なコレクションから約250点の作品と約80点の関連資料が集結。アルヴァ・アアルトやトーベ・ヤンソンなど世界的に知られるアーティストや、日本ではこれまで紹介される機会が少なかったアーティストを含め、50人以上のデザイナーやアーティストの作品が並んでいる。
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フィンランドの独立記念日である12月6日に開催された内覧会で、本展の担当学芸員・菅沼万里絵は次のように話している。「(フィンランドが)独立した日は、フィンランドのデザイン史にとってとても重要な日。1917年にロシアから独立して、新しい国づくりの一環としてフィンランドの人々はデザインに力を入れようとした」。
菅沼によると、デザインと国づくりとの関係性には、国民が日常生活で使うプロダクトをつくり、大量生産の土台を整えることで、産業や経済の活性化を図るという意図が含まれている。また、誰もが手に馴染みやすくて使えるものをつくることも、フィンランドデザインのひとつの発想だという。
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例えば、第2章「機能的なフォルム」ではフィンランドを代表する陶器とガラスのデザイナー、カイ・フランクが1950年代にデザインした食器シリーズ「キルタ」が紹介されている。調和を考慮した配色や洗練されたかたちが用いられたこのシリーズは、完全なディナーセットとしてデザインされたのではなく、自由に色などを組み合わせることで個々のアイテムから選ぶことができる。
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菅沼は、このシリーズは「それまでのヨーロッパでの食器の概念を覆した革命的なものだった」とし、「庶民にとっても非常に優しい設計。一般の家庭の食器棚に重ねて収納しやすいので、広い家でなくても快適に使える」と語っている。
機能的なプロダクトを大量に生産するいっぽうで、フィンランドは国として芸術的な作品の制作も積極的に支援した。例えば1950年代は、フィンランドデザインにおける「黄金時代」と評価される。フィンランドのデザイナーたちによるガラスや陶磁器作品が国際的に脚光を浴び、フィンランドは世界においてデザイン大国として位置づけられた。
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第3章「モダニズムのアイコン」では、1951年のミラノトリエンナーレで出品し、大きな名声を博したタピオ・ヴィルッカラの花瓶《杏茸》や合板のレリーフ《葉》をはじめ、陶磁器の分野において活躍したトイニ・ムオナやキュッリッキ・サルメンハーラなどの女性アーティストの作品、そしてウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロムなどのテキスタイルデザイナーが生み出した芸術性の高いラグなどを観覧することができる。
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こうした実用的な作品であれ芸術的な作品であれ、そのほとんどがフィンランドの豊かな自然からインスピレーションを得てかたちづくられていることが、フィンランドデザインの大きな特徴。冬が長いため、太陽や花など鮮やかな要素が取り込まれたテキスタイルや、有機的なかたちでつくられたガラスや陶器作品など、どのような自然の要素が隠されているのかを考えながら見ることも、本展の楽しみのひとつだ。
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なお本展では、スマートフォン上の音声ガイドアプリを通してスペシャル音声コンテンツを視聴することが可能。この音声ガイドでは、本展ナビゲーターを務める「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」デザイナーの皆川明がフィンランドデザインに馳せた想いをエッセイで綴り、ナビゲーターのクリス智子がこのエッセイを朗読する。
6日の内覧会に登壇した皆川は、本展について次のように語っている。「40~50年前のデザインと感じないまま、きっと自分の暮らしのなかにも取り入れたいという感覚になる。それが私たちの社会の環境問題においてモノを長く使うなどの概念にもつながっていく。そういう意味で色々な視点から『ザ・フィンランドデザイン展』は重要な展覧会になると思う」。
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