世界的な人気を誇るドイツ出身のアーティスト、ゲルハルト・リヒター。その抽象作品がエスパス ルイ・ヴィトン大阪の「Abstrakt」展に集結した。
本展は、昨年2月に開館した日本で二つ目のエスパス ルイ・ヴィトンであるエスパス ルイ・ヴィトン大阪における第2回目の展覧会。前回はジョアン・ミッチェルとカール・アンドレの2人展「Fragments of a landscape (ある風景の断片) 」展だったため、今回のリヒター展が同スペースでは初の個展となる。
ゲルハルト・リヒターは1932年東部ドイツ、ドレスデン生まれ。劇場画家として働いた後、51年にドレスデンの美術大学に通い始め、56年まで学んだ。その後、ベルリンの壁がつくられる直前の61年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーへ入学。「資本主義リアリズム」と呼ばれる運動のなかで独自の表現を発表し、注目を集めるようになる。その後は、イメージの成立条件を問い直す多岐にわたる作品制作を通じて、ドイツ国内のみならず、世界で評価されるようになった。これまで、ポンピドゥー・センター(1977年)、テート・ ギャラリー(1991年)、ニューヨーク近代美術館(2002年)、テート・モダン(2011年)など世界の主要美術館で個展を開催。2005〜2006年にかけては金沢21世紀美術館、DIC川村記念美術館で個展を開催しており、22年には日本の美術館では16年ぶりとなる大規模個展が東京国立近代美術館と豊田市美術館で開催予定となっている。
リヒターの抽象作品は1960年代半ばまで遡り、現在に至るまで具象作品と抽象作品を交互に制作し続けている。本展では、パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンが所蔵するリヒター作品のなかから、18点の抽象作品を展示するものだ。
リヒターは様々な制作手法をとることで知られるが、本展ではその多様な表現技法を「抽象」という括りで見ることができる。
展示冒頭を飾るのは、写真にペインティングを施した作品群。「Grauwald(グレイの森)」シリーズと《28. April '05》《29. April '05》(ともに2005)は、ともに白黒またはカラー写真のプリントに重ね塗りをほどこしたもの。支持体となった写真のモチーフはほとんど絵具で覆われており判別が難しいが、それがかえって想像力を掻き立てる。
これを抜けた先には、広い展示空間と大型作品が待ち構える。会場奥で一際明るい光を放つのは、横4メートルにおよぶ二連画《Lilak》(1982)だ。
黄色い色面にところどころ垣間見える青色。これは自然主義を援用した空を想わせるものだという。ダイナミックな絵具の軌跡からは、リヒターの動作すら見えてくるようだ。
同じくキャンバスに油彩の作品としては、ニンジンを意味する《Möhre》(1984)がある。縦に長い本作は、その中心軸を灰色、赤色、黄色が囲む。リヒターはこのオレンジの中心線にちなんで、本作を「ニンジン」と名付けたという。
また、本展では《940-4 Abstraktes Bild》および《941-7 Abstraktes Bild》(ともに2015)にも注目したい。このふたつの抽象画は、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが収蔵して以降、初めて披露されるもの。比較的小さな作品ではあるものの、そこに込められた複雑な色相は眼を見張るものがある。
「Strip」シリーズも本展で大きな存在感を放つ作品だ。2011年に着想された本シリーズは、リヒター自身の絵画が素材となっている。絵画をスキャンし、プログラミングによってその画像をどんどん縦に分割することによって、膨大な色の層が生まれる。絵画の可能性を切り開こうとするリヒターの姿勢が感じられることだろう。
来年、生誕90年と画業60年を迎えることでますます注目を集めるゲルハルト・リヒター。それを前に、貴重なフォンダシオン ルイ・ヴィトンのコレクションの数々をじっくりと見ておきたい。