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ラファエロからフェルメール、ゴッホまで。「メトロポリタン美術館展」で西洋絵画の変遷をたどる

メトロポリタン美術館の西洋絵画コレクションから65点を紹介する展覧会「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が大阪市立美術館でスタートした。ラファエロからカラヴァッジョ、フェルメール、そしてモネ、ルノワール、ゴッホまで、西洋絵画史500年の流れをたどる本展の見どころを紹介する。

展示風景より、ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》(1670-72頃)

 世界三大美術館のひとつで、先史時代から現代まで5000年以上にわたる世界各地の文化遺産を所蔵しているニューヨークのメトロポリタン美術館。そのヨーロッパ絵画部門に属する約2500点の西洋絵画コレクションから65点を紹介する展覧会「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が大阪市立美術館で開幕した。

 本展は「信仰とルネサンス」「絶対主義と啓蒙主義の時代」「革命と人々のための芸術」の3章構成されており、出品作品のうち46点は日本初公開。ラファエロ、カラヴァッジョ、レンブラント、フェルメール、ルーベンス、ターナー、クールベ、マネ、モネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌなど、15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派までの名画が一堂に紹介されている。

 大阪市立美術館館長の篠雅廣は、メトロポリタン美術館から「こういうときだからこそ国際的連帯をしたい」という提案を受けたことで本展を実現したとし、「個人的な感覚では10年に1回、あるいは20年に1回という驚く内容だ」と話している。

第1章「信仰とルネサンス」の展示風景より
第1章「信仰とルネサンス」の展示風景より

 第1章「信仰とルネサンス」では、イタリアと北方のルネサンスを代表する画家たちによる17点の作品を展覧。

 15世紀から16世紀にかけてイタリアを中心にヨーロッパ各地で隆盛したルネサンス文化は、「神と信仰を中心とした中世の世界観に対して、それに先立つ古代ギリシャ・ローマの人間中心の文化を理想とみなし、その『再生(ルネサンス)』を目指したもの」(リリースより)。例えば、初期ルネサンスのイタリアを代表する画家のひとり、フラ・アンジェリコの《キリストの磔刑》(1420-23頃)では、イエスを私たちと同じ感情と生身の肉体を持つ人間として描くことで、いっそうの共感を呼ぶ。

展示風景より、フラ・アンジェリコ《キリストの磔刑》(1420-23頃)

 ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンティの《ゲッセマネの祈り》(1504頃)は、磔刑への恐れに苦悩しながら神に祈るキリストと、眠り込んでリラックスする弟子たちの姿が描かれたもの。ラファエロが20〜21歳頃に描いた同作では、その初期の繊細優美な作風を堪能できるだろう。

展示風景より、ラファエロ・サンティ《ゲッセマネの祈り》(1504頃)

 17世紀のヨーロッパ各国では君主が主権を掌握する絶対主義体制が強化され、18世紀では理性による思考の普遍性と不変性を主張する啓蒙思想が盛んになった。第2章では、絶対主義と啓蒙主義の時代に生まれた30点の名画が紹介されている。

 同章でもっとも注目すべき作品は、ともに日本で初公開となるカラヴァッジョの《音楽家たち》(1597)とフェルメールの《信仰の寓意》(1670-72頃)だろう。

展示風景より、カラヴァッジョ《音楽家たち》(1597)

 前者は、26歳のカラヴァッジョが最初のパトロンとなったデル・モンテ枢機卿のために制作したもので、少年たちが音楽を演奏している情景を描いている。また、画面の左端にはキューピッドが描かれており、合奏の情景の単なる再現ではなく、「音楽」と「愛」の寓意が主題として考えられている。劇的な写実描写や激しい明暗表現が特徴的なカラヴァッジョは、17世紀のヨーロッパに普及したバロック様式の立役者ともなった。

展示風景より、ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》(1670-72頃)

 いっぽうの《信仰の寓意》は、風俗画で知られるフェルメールの全作品のなかで唯一の寓意画とされている。キリストの磔刑の絵の前に座る女性は「信仰」の擬人像とされており、地球儀を踏む動作はカトリック協会が世界を支配することを示唆するものと解釈されている。また、十字架、杯、ミサ典書、りんごなどのモチーフにも、宗教的なメッセージが込められている。

 また同章では、ルーベンスの宗教画《聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ》(1630年代初頭/中頭)から、ベラスケスやレンブラントの肖像画《男性の肖像》(1635頃)《フローラ》(1654頃)、ピーテル・クラースの静物画《髑髏と羽根ペンのある静物》(1628)、クロード・ロランやヤーコプ・ファン・ライスダールの風景画、そしてバロックやロココ様式を代表する画家たちの作品が展示。17世紀〜18世紀のヨーロッパ絵画の変遷をたどることができる。

展示風景より、右はピーテル・パウル・ルーベンス《聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ》(1630年代初頭/中頭)
展示風景より、左はレンブラント《フローラ》(1654頃)

 19世紀に入ってヨーロッパ全土には近代化の波が押し寄せ、自由と人権の意識に目覚め、かつ経済力を持つ新しい「市民」社会が発展していった。第3章「革命と人々のための芸術」では、こうした背景下に生まれた18点の作品が並ぶ。

 その一例としては、イギリスのロマン主義を代表する風景画家ターナーがイタリアを旅し、ヴェネチアの大運河を主題に描いた《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む》(1835頃)が挙げられる。厳格な理想美を求めた新個展主義とは異なり、湿気をはらんだ大気のなかで、水面と建物、船、空がひとつに溶け合った幻想的な情景がつくりだされている。

展示風景より、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む》(1835頃)

 柔らかく軽やかな筆致で少女の姿を描いたオーギュスト・ルノワールの《海辺にて》(1883)や《ヒナギクを持つ少女》(1889)、舞台裏で衣装を整える踊り子たちの姿を切りとって描いたエドガー・ドガの《踊り子たち、ピンクと緑》(1890)も、都市のなかで生活を送っている人々の姿を生き生きととらえている。

展示風景より、左からオーギュスト・ルノワール《ヒナギクを持つ少女》(1889)《海辺にて》(1883)
展示風景より、エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》(1890)
展示風景より、クロード・モネ《睡蓮》(1916-19)

 展覧会の最後には、セザンヌやゴッホ、ゴーギャンなど、印象派の成果を受け継ぎながら独自のスタイルを発展させたポスト印象派の画家たちの作品が並んでいる。その多彩な表現は、より複雑で難解な20世紀の芸術に多大な影響を与えた。

 本展は、2022年2月9日~5月30日の会期で東京の国立新美術館で巡回開催を予定している。メトロポリタン美術館所蔵の数々の名画を通し、西洋絵画の発展を概覧する機会をお見逃しなく。

展示風景より、左はポール・セザンヌ《リンゴと洋ナシのある静物》(1891-92頃)
展示風景より、左からポール・ゴーギャン《タヒチの風景》(1892)、フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲く果樹園》(1888)
展示風景より、左からギュスターヴ・クールベ《水浴する若い女性》(1866)、ジャン=レオン・ジュローム《ピュグマリオンとガラテア》(1890頃)
展示風景より、左からエドゥアール・マネ《剣を持つ少年》(1861)、フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《ホセ・コスタ・イ・ボネルス、通称ペピート》(1810頃)

編集部

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