約50万点の文化財を所蔵し、珠玉の印象派コレクションを誇るイスラエル博物館。そのコレクションから印象派を中心にした作品を展観する展覧会「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」が、三菱一号館美術館で開幕した。
本展では、イスラエル博物館が1965年の開館以来蓄積してきた約2500点の近代美術コレクションから、約70点の作品を厳選して展示。出品作の大半は日本初公開となる。
展覧会は「水の風景と反映」「自然と人のいる風景」「都市の情景」「人物と静物」の4章構成。印象派に先駆けたバルビゾン派のコロー、ドービニー、そしてモネ、ルノワール、シスレー、ピサロ、この流れを発展させたポスト印象派のセザンヌ、ファン・ゴッホ、ゴーガン、さらに印象派の光と色彩の表現を独特の親密な世界に移し変えたナビ派のボナールやヴュイヤールなどの作品を通して印象派の光の系譜をたどる。
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水の反射や光の動きは、印象派の作品における中心的な要素とも言える。第1章「水の風景と反映」では、印象派の画家たちが好んだ水と水鏡の反映を通し、印象派の風景表現の特質を探求する。
《川沿いの町、ヴィル=ダヴレー》(1855-56頃)をはじめとするコローの作品は、画家の家から見えた池や周囲の木々、地元の人々などの風景が穏やかに描かれたもの。セザンヌの《川の湾曲部》と《エスタックの岩》(いずれも1865)では、森、川、海、岩などの風景を絵具の厚みを感じる筆触で描写。ブーダンの《川辺の洗濯女たち》(1880-85)と《ベルクの浜辺》(1882)では、川辺で仕事に没頭する女性たちや、浜辺に上級階級の人々と地元の住民が入り混ざっている様子が闊達な筆遣いで描かれている。
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同章では、モネが「当たり年」と評される1907年に制作した《睡蓮の池》(1907)も展示。1905年、モネはパリのデュラン=リュエル画廊で「睡蓮:水の風景連作」展を開催し、1903年〜08年のあいだに描いた48点の睡蓮の連作を1室にまとめた。本作はそのうちの1点で、穏やかな水面に睡蓮が浮かんでおり、雲や空、木々など池の外の情景も示唆している。
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今回の展覧会では、DIC川村記念美術館と和泉市久保惣記念美術館が所蔵する2点の《睡蓮》(いずれも1907)も特別展示。これらの作品は、いずれも上述の「睡蓮:水の風景連作」展の出品作であり、イスラエル博物館所蔵の《睡蓮の池》とはほぼ同じ構図となっている。水面にオレンジ色や淡い黄色がかった緑色の空が映り込んでおり、この連作の制作時の天候や時間がどのように違うのかをうかがうことができるだろう。
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また11月30日からは、「睡蓮:水の風景連作」展の出品作の1点であり、東京富士美術館所蔵の《睡蓮》(1908)も展示。モネの庭のぼほ同じ場所を描いた同作を、ほかの3点と比較しながら堪能してほしい。
第2章「自然と人のいる風景」では、バルビゾン派が得意とし、後に印象派やポスト印象派も継承した、自然とともに人の営みを表現した作品を紹介。ゴッホの《プロヴァンスの収穫期》(1888)には、収穫期の麦畑やそこで働く農民など、南仏アルル近郊の農村での生活の断片が、ゴーガンの《ウパ ウパ(炎の踊り)》(1891)には、近代化・西欧化が進んだタヒチで公的に禁じられていた官能的な先住民の踊りが描かれている。
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印象派の画家たちは、都市景観の変化を敏感に取り入れ、しばしば都会の風景を描き出した。第3章「都市の情景」では、印象派とその後継者たちの視線を通じ、近代都市の容貌を展覧。パリ・ルーヴル宮から続くテュイルリーの庭園の一角から眺めた情景を描いたピザロの《テュイルリー宮殿、午後の陽光》(1900)や、ベルリン・ポツダム広場で傘をさす通行人や町のネオン広告を描いたレッサー・ユリィの《夜のポツダム広場》(1920年代半ば)などが並んでいる。
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急成長する中産階級の姿を描いた作品や、日々の暮らしを表現した静物画が集まるのが、第4章「人物と静物」だ。同章では、ルノワールが友人で役人のレストランゲを大胆な筆致で描いた《レストランゲの肖像》(1878)や、友人の妻を描いた《マダム・ポーランの肖像》(1880年代後半)、ナビ派を代表する画家ピエール・ボナールが妻の姿をテーブルの上にある静物などとともに描いた《食堂》(1923)などを見ることができる。
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