世界最大のゴッホコレクターの視点をたどる。東京都美術館「ゴッホ展」に見る、ゴッホ作品とその評価の変遷
世界最大のゴッホ作品の個人収集家、ヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションに焦点を当てる展覧会「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が、東京・上野の東京都美術館で開幕した。ヘレーネが創設したクレラー=ミュラー美術館のコレクションからのゴッホ作品やほかの画家の作品を通じて、ゴッホ作品の変遷をたどる。
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20世紀初頭にフィンセント・ファン・ゴッホに魅了され、後に世界最大のゴッホの個人収集家となったヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションに焦点を当てる展覧会「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が、東京・上野の東京都美術館で開幕した。
ヘレーネは、ゴッホがまだ評価の途上にあった1908年からのおよそ20年間で、実業家の夫アントンの支えのもと、ゴッホの約90点の絵画と180点を超える素描・版画を収集。その作品がもたらす感動を多くの人々と分かちあうため、1913年にコレクションの公開を始め、後に美術館の建設計画を進めた。
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本展では、ヘレーネが創設し、初代館長を務めたクレラー=ミュラー美術館のコレクションから、ゴッホの絵画28点と素描20点を展示。加えて、ヘレーネが収集したほかの画家による作品20点や、世界最大のゴッホコレクションを持つアムステルダムのファン・ゴッホ美術館から貸し出されたゴッホの油彩画4点もあわせて紹介されている。
展覧会の担当学芸員・大橋菜都子(東京都美術館学芸員)は本展について、「今日世界的にゴッホの評価も人気も高くなっているなか、こうした評価や人気はどのように広がってきたのか、その一端に迫る展覧会になる」と語っている。
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展示会場は4部構成。第1章「芸術に魅せられて:ヘレーネ・クレラー=ミュラー、収集家、クレラー=ミュラー美術館の創立者」では、オランダの画家、フローリス・フェルステルが描いたヘレーネと、ヘレーネのアドバイザーの役割を果たした美術批評家で美術教師のヘンク・ブレマーの肖像画を、ヘレーネやクレラー=ミュラー美術館の写真とともに紹介している。
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第2章「ヘレーネの愛した芸術家たち:写実主義からキュビスムまで」では、ヘレーネが熱心に収集した、ミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンらの作品が並ぶ。ヘレーネの関心や収集傾向を知りながら、写実主義から印象派、新印象派、そして抽象主義まで近代西洋絵画の流れをたどることができる。
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第3章「ファン・ゴッホを収集する」では、ゴッホの作品スタイルの変遷を時系列でたどる。オランダ時代の素描画や油彩画から、パリで色調を明るくし、新しい表現を試みて取り組んだ作品、アルルで南仏の明るくて鮮やかな色彩を取り入れた風景画、そしてサン=レミの療養院で庭や周囲の田園風景をテーマに制作した作品や、北仏のオーヴェール=シュル=オワーズに移住し、より自由な筆遣いを発展させた作品などが紹介されている。
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第4章では、《黄色い家(通り)》(1888)をはじめ、アムステルダムにあるファン・ゴッホ美術館のコレクションからのゴッホ作品4点が展示されている。ゴッホの没後、その作品を弟テオが相続し、テオの没後にまたその妻ヨーと息子フィンセント・ウィレムが相続し、最終的にはウィレムがファン・ゴッホ財団を設立し、作品群をファン・ゴッホ美術館に永久貸与した歴史を知る機会となる。
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大橋によると、ヘレーネがゴッホの評価形成に果たした大きな役割は、収集、公開、継承の3つにあるという。ゴッホの作品がまだ高く評価されていかなったときに、その作品を多数購入してコレクションしたことは、「美術市場を大いに刺激し、ゴッホに関心を持つ人々が増える大きなきっかけをつくった」。
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また、ヘレーネは自ら楽しむためにゴッホのコレクションをつくったわけではなく、その作品を初めて購入してから5年後に会社の隣の建物でコレクションの公開を始めた。「まだ世界中のどこの美術館でもまとまったゴッホの作品を公開している施設がない時代に、ゴッホの常設展示場をつくったことで、人々がゴッホの作品を実際に目にして評価するようになった」。
さらに、ヘレーネは42歳頃から美術館をつくる夢を持ち始めた。「そうすることで同時代の人々だけではなくて、後世の人々にも自分の心の支えになった芸術を伝えたいという思いを持って継承することで、私たちが今日こうしたゴッホの作品を見ることができる」。
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大橋は、「ゴッホがなくなって131年を経て、こうした作品を見ることができるのは、ヘレーネをはじめとした先人たちが(ゴッホの)名を広めて大切に守りながら、継承してきた成果でもある」としつつ、次のように述べている。
「そうした流れを途切れさせずに展覧会というかたちで多くのお客様に作品を見ていただくことで、ゴッホの魅力を発信してさらにまた後世に伝えていく機会になれば幸いに思う」。
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