大村秀章愛知県知事が8月13日に設置を発表した「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」。その第1回会合が、8月16日に愛知県庁で開催された。
委員会のメンバーは、国立国際美術館館長・山梨俊夫(座長)、慶應義塾大学総合政策学部教授・上山信一(副座長)、アグロスパシア株式会社取締役兼編集長・岩渕潤子、国立美術館理事・太下義之、信州大学人文学部教授・金井直、京都大学大学院法学研究科教授・曽我部真裕の6名。大村知事はオブザーバーとして委員会に参加した。
冒頭、大村知事は「表現の不自由展・その後」の展示中止の経緯を説明したうえで、「会期中、安全な運営に全力で取り組みたい。日本の芸術祭のあり方、行政との関わりなどを踏まえていかなければならない、重要なポイント」だと発言。
委員会では、山梨座長が各委員の考えをヒアリングするかたちで進行した。各委員の発言概要は以下の通り。
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岩渕潤子
「公共空間」をどう認識するか。SNSによって公共空間の認識が変わってきている。本来であれば(展覧会の)趣旨を理解した人だけが見るはずの展覧会が、文脈の外に流れたことで多くの人が本来の意図に触れずに反応してしまった。これは極めて現代的な問題。公共空間、あるいは自治体が主体となって行うイベントで、公共性をどうとらえるかを議論しなければいけない。
太下義之
「表現の自由」や、公金が投じられた芸術祭のあり方など論点が多数あり、紐がこんがらがっている。これを解きほぐし、一つひとつ議論していかないといけない。県内の小中学校に対して行われた脅迫は明らかなテロ行為であり、トリエンナーレ以外にも波及する懸念がある。愛知県は政府に対し、脅迫への厳罰化を要望すべき。「安全性確保したうえでの展示再開」については極めて困難で、展示再開の声明が多数出ている状況は、現実とずれている。主体性を欠いた無責任な意見が、インターネットで正しいかのごとく発信されている。
金井直
展示中止の原因が検閲ではないか、という言説があるが、これはテロ行為によるもの。「表現の不自由展・その後」は、表現の自由という観点のみではなく、憲法第23条「学問の自由」に関わる問題を孕んでいる。「表現の不自由展・その後」を学問の自由の観点から語るならば、どの程度リサーチベースの展覧会として構成されていたのかを検証したい。愛知県民に芸術祭文化が根付いており、語り合う文化が醸成されてきている。それを力にしながら、現状を切り開き、進めていきたい。
曽我部真裕
「表現の自由」については複雑な状況。主催者、作家、批判する側など多数のファクターがあり、誰の、どの表現の自由が問題になっているのかを整理しないとけない。公金を使っているから政治的な表現がダメだ、というのでは表現の自由がやせ細っていく。どのような条件であれば政治的に偏った、あるいは一部の人に対して不快な表現していいのかを考えていかなければいけない。脅迫は論外として、展示内容についての批判は市民の表現の自由だが、批判が多数殺到することで、暴力的なものになってしまうことに難しさがある。「表現の不自由展・その後」の一部の作品は、ある政治的な立場に属する作品だったが、それが逆の立場であっても議論が成立するものでなければならない。
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こうした委員の発言を受け、上山副座長は「『表現の不自由展・その後』は特殊な位置付けのもの。特殊なものには特殊な体制が必要だったが、それがなかった」と指摘。展示とともに「表現の自由についてのセッション」などを実施し、「悩ましいテーマだと予告したうえで、(表現の自由を)勉強した人を前提に作品を見せるべきだった」と語った。
加えて展示の実施責任、実施主体についての明文化が不十分として、「ガバナンス(権限、役割分担)を見直し、進化させる工夫が必要」だとの認識を示した。
なお、今後の検証委員会の進め方に関しては、ワーキングチームを設け、事務局の協力のもと資料の収集分析、関係者、有識者へのヒアリングを実施。9月下旬を目処に1回目の経過報告をすること、そしてヒアリングで得た事実関係を情報公開したうえで、県民、作家、キュレーターや識者を交えた「表現の自由」に関する公開フォーラムを9月中を目処に開催することの2つが提案され、すべての委員が賛成を表明した。
大村知事も「情報公開と県民参加が大事」として、公開フォーラム実施について賛成の考えを表明。芸術監督・津田大介との協調については、津田自身が声明の中で「議論する場を定期的に設けていきたい」としていることから「方向性は一致している」と語った。
なお今後の情報発信について山梨座長は、「公開フォーラムを待たずとも、公開すべき情報があれば公開する」という考えを示している。