2019.6.25

ロエベ クラフト プライズ 2019、大賞は石塚源太。漆で「工芸の先」を見つめる

ラグジュアリー レザーブランド・ロエベによる「ロエベ財団」が2016年から毎年行っている「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」。その3回目となるロエベ ファンデーション クラフト プライズ 2019が、東京・赤坂の草月会館にあるイサム・ノグチ作の石庭「天国」で開幕した。これまででもっとも日本人応募者が多かったという今回は、京都をベースに活動する石塚源太が大賞に輝いた。

大賞受賞者の石塚源太
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 1846年に設立されたラグジュアリー レザーブランド「ロエベ」は、88年にロエベ財団を創設。このロエベ財団と、ロエベのクリエイティブ ディレクターであるジョナサン・アンダーソンが2016年に立ち上げた「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」が、今年で3回目の開催を迎えた。

 クラフトを「人間の自己表現における基本的なこと」と語るジョナサン・アンダーソン。このプライズが目的とするのは、今日の文化におけるクラフト(工芸)の重要性を認知すること、また未来の新たなスタンダードを創出する革新的な才能やヴィジョン、および意志を持つアーティストを評価することだ。回を重ね、存在感を増してきた結果か、今回は100ヶ国以上から2500点を超える応募(昨年比べ44パーセント増)があった。

 アナツ・サバルベスコア(『El Pais』建築・デザイン担当評論家)が選考委員長となり、9人の専門委員会が選出したのは、29名のファイナリスト。その作品が、東京・赤坂の草月会館内、イサム・ノグチの名作として知られる「天国」に集まった。​

会場風景

​ 6月25日にはこの29人のなかから大賞および特別賞が発表され、大賞には1982年京都生まれの石塚源太が輝いた。石塚は2006年に京都市立芸術大学工芸科漆工専攻を卒業。その後ロイヤル・カレッジ・オブ・アートへの交換留学を経て、08年に同大大学大学院工芸科漆工専攻を修了した。これまで国内外のグループ展に参加し、その作品はミネアポリス美術館(アメリカ)、ヴィクトリア&アルバート博物館(イギリス)、京都市美術館に収蔵。今年に入ってからは「京都市芸術新人賞」を受賞している。

左からプレゼンターを務めた鈴木京香、大賞受賞者の石塚源太、ロエベ クリエイティブ ディレクターのジョナサン・アンダーソン
石塚源太と審査員のひとりである深澤直人

 受賞作の《Surface Tacitility #11》(2018)は、抽象的なフォルムをした漆の立体。乾漆技法と天然漆を基本に、何層にも振り重ねられた漆が、どこまでも深く、複雑なテクスチャーを生み出している。メッシュ袋に入ったオレンジを着想源としたという本作について、ジョナサン・アンダーソンは「彼は漆の知識を使いながら次世代の作品をつくりだした」と評価する。「漆は何百年もの歴史がありますが、(これは)タイムレスな作品だと思います。千年後につくられたとしても不思議ではありません」。

石塚源太 Surface Tacitility #11 2018

 いっぽう石塚は今回の受賞について、「ファイナリストに選ばれただけでもホッとしていたのですが、大賞に選ばれてビックリしています」とコメント。その意義について次のように語った。

 「このプライズはクラフトを『クラフト』の分野に閉じ込めない。『これが工芸』と決められるのではなく、そこから先に広げていくという意識が主催者側にあり、ボーダレスな存在として出品できると思ったので応募しました。私は芸大で漆を学んだので、職人的であるべきだとか、技巧的であるべきだといった意識はありません。周囲にも現代美術作家の友人が多く、そこと相対化させながら素材の扱いを学んできた。工芸の世界に向かって素材を扱っていたのではなく、漆をどう扱えば世界に見せられるのか、どう扱えば新しいのかを意識しています。技術論ではなく、その向こう側にある自分の思想・哲学を見せていければ」。

展示風景より、右が石塚源太《Surface Tacitility #11》(2018)

​ 本プライズの設立背景には、「クラフトは十分なサポートがされておらず、ロエベがクラフトに関する対話を生み出すようなプラットフォーム(土台)をつくりだすことが重要だ」というジョナサン・アンダーソンの考えがある。「天国」で展開されたこのプラットフォームは、日本でどのような対話を促すだろうか。

特別賞を受賞したハリー・モーガン《'Untitled' from Dichotomy Series》(2018)
特別賞を受賞した高樋一人《KADO(Angle)》(2018)
29 名のファイナリスト