世界各国のアーティストたちがエルメスの様々な工房に滞在し、革や銀、クリスタル、シルクといった専門分野の職人たちとともに新たな作品をつくりあげるのレジデンスプログラム「アーティスト・レジデンシー」。
その成果を発表する展覧会「眠らない手」が今年、2期にわたって開催されている。前期(2018年9月13日~11月4日)では、クラリッサ・ボウマン、セリア・ゴンドル、DH・マクナブ、ルシア・ブルの4作家が登場した。そして11月15日からスタートした後期では、ビアンカ・アルギモン、ジェニファー・ヴィネガー・エイヴリー、イオ・ブルガール、アナスタシア・ドゥカ、ルーシー・ピカンデの5作家を紹介する。
ヴィジュアル・アーティストであり、パフォーマンスも手がけるジェニファー・ヴィネガー・エイヴリーは、会場内にエルメスの展示空間とはまったく異なる装飾的な小部屋を出現させた。リヨンのホールディング・テキスタイル・エルメスに滞在したエイヴリーは、その工房で捨てられていたシルクの切れ端やコピー用紙、粘土など様々な素材を収集。職人たちとともに、廃棄物を使ったキャラクターの集合体を生み出した。
伝統的に「女性らしい」とされる素材や手法を好んで使ってきたエイヴリーは、今回それらキャラクターとともに、赤ずきんの世界をギャラリー内で演じる。
いっぽう、アテネを拠点に活動するアナスタシア・ドゥカがテーマにするのは靴だ。イギリス・ノーザンプトンの老舗シューメーカー・ジョンロブに滞在したドゥカは、靴の製作に使用する機械に惹かれたといい、本展ではそれらをかたどった実物大の作品を展示。また、工房の105人のスタッフ全員と靴に対する好みについて会話をし、全員分の革靴を制作。ひとつとして同じものがない靴は、ドゥカと工房の職人たちの親密さを表している。
このほか、本展では革を素材に直径180センチもの巨大な円形の作品を制作したルーシー・ピカンデや、マルセル・デュシャンの《トランクの中の箱》からインスパイアされた立体を手がけたイオ・ブルガール、「エデンの園」を独自に解釈し、展示室の壁面にまでその絵画を出現させたビアンカ・アルギモンなど、どれもがアーティストと職人が出会うことでまったく新たに生み出されたものばかり。
エルメスの職人技がアーティストにもたらした影響と、その結果に注目してほしい。