1970年に大阪万博ペプシ館で発表されて以来、これまで世界80ヶ所で霧を使った作品を見せてきた中谷芙二子。その作品は「霧の彫刻」と呼ばれ、人工的に発生させたダイナミックな霧に多くの人々が魅力されてきた。
そんな中谷の父である中谷宇吉郎は、1936年に世界で初めて人工的に雪の結晶をつくり出したことで知られる科学者。本展は、かつて宇吉郎が4回にわたり研究のために滞在した北極圏の地・グリーンランドの雰囲気をエルメスの空間に見いだした中谷の提案により、「グリーンランド」と名付けられた。
中谷は本展について、「自然に対する姿勢が基本にあって、観察したりする前に、まず人間として真摯な興味がなければ自然は何も語ってくれない。そういう自然との関係がベースとなって、この展覧会はできています」と語る。
ハイライトとなるのは、新作の霧の彫刻《氷河の滝 グリーンランド》(2017)だ。これまで、屋外で実施されることが多かった霧の彫刻。一切窓がない空間での実施は今回が初めてであり、中谷自身、「非常に難しかった」という。
「これは原初的な『濡れる喜び』を提供できる彫刻です。そのいっぽう、霧は都会が排除してきたものでもある。それを都会の中でやるということには興味があったし、チャンスがあればやりたいと思っていました」。
風や日光(気温)などによって様々な影響を受ける霧。約50年にわたりこの霧とともに歩んできた中谷だが、その扱いの難しさについてはこう語る。「霧を定着させて見れるもの(=作品)にすること自体、不可能なこと。しかし、テストと観察を繰り返して、気流を考えながら霧のかたちを持続させることはできるようになってきました。ただそれでも『風の動きを観察することで少しは理解できる』というような状況。ですから、コントロールするのではなく、その場の隙を見てタックルして、四つに組んでやっている感じです。自然に委ねてつくっています」。
室内ではあるものの、《氷河の滝 グリーンランド》は昼間の自然光と、夜間のネオンの灯りなど、外的要因によって様々な表情を見せる。一度も同じかたちになることのないこの霧の彫刻をぜひ体験してもらいたい。
なお、会場ではこのほか宇吉郎がグリーンランドで採取した石や、撮影した写真のスライドショーをはじめ、1936に最初に人工の雪の結晶をつくったときの写真などの資料も豊富に展示。
あわせて中谷の初期の映像作品や絵画作品、過去の霧の彫刻のアーカイブ映像なども展覧することで、中谷親子が対話するような構成となっている。