中国出身の張聴(ジャン・ティン)が発表したのは、油彩画とUVプリントを組み合わせた《モンキー・ジムナスティックス》と、アクリル絵画とTFT円形ディスプレイで構成する《キープ・ユア・マインド》。「サルの被り物をした人物が、競技場の鉄棒に両手でぶら下がる姿」の写真を目にした記憶から、AIを用いて類似のイメージを生成した作家は、その画像に「規律によって抑圧された人間」を読み取り、自身の作品へと展開した。

韓国の陶芸家であるヤン・ホンジョは、絵画と陶芸作品のミクストメディアの作品《バナナとウサギ》を発表。靴をしばしばモチーフとするヤンは、「失われた靴たちがなりたいと願う、儚い憧れの対象」としてバナナを、「そんな靴たちを助ける存在」としてウサギの精霊を作品に表した。大学時代のつらい時期に心を慰めてくれたバナナのお菓子と、幼少期に大切にしていたペットのウサギから着想を得たというこの作品からは、記憶とファンタジーの融合を読み取ることができる。

会場一番奥の空間で、間取り図を模したペインティングと、建物の屋内を映し出すCG映像とを組み合わせたインスタレーション作品《掘削かてい》を発表した菅野歩美は、「オルタナティブ・フォークロア」をテーマに制作を続ける現代美術作家だ。土地にまつわる物語や伝説、幽霊譚など「フォークロア」と呼ばれるものに対して、なぜ人々によってそれらが紡がれてきたのか、その背後の歴史や個人の感情を想像することで生まれる「オルタナティブ・フォークロア」を映像インスタレーションに表現している。作品のモチーフは、菅野の祖父が廃業した事務所。整理の過程で着想を得たという本作は、「むかしむかし」から始まる語りとともに事務所内を巡る映像を通して、モノの配置や間取りといった記憶の曖昧さや揺らぎを表現している。

PARCO MUSEUM TOKYOを出て4階アトリウムに向かうと、今枝祐人による《インワード・フェイシング・アウトワード》が展示されている。短歌や詩などの言語表現をもとにインスタレーション作品を制作する今枝は、都市の日常に溶け込む電光掲示板を用いて、自身の言葉や映像を街へと持ち出す行為をかたちにした。内なる言葉(Inword)を外部(Outward)に向けて解放し、社会との新たな接点を生み出す試みでもあると作者は説明する。

手法を自在に組み合わせ、そこに自らの記憶や土地の情報、都市の背景などを表現した作品の数々が展示された「P.O.N.D. 2025」。作品それぞれのリズムを感じ、鑑賞者の内側でそれらが結びつくことで、重層的で豊かなグルーヴが生み出されるに違いない。気鋭の表現者たちのポテンシャルを会場全体から感じ取ってみてはいかがだろうか。



















