渋谷パルコで「P.O.N.D. 2025」が開催中。アーティストらが生み出す重層的で豊かなグルーヴに注目【2/3ページ】

 何梓羽(He Ziyu)の《リアリストの占い》は、再利用工業製品などを組み合わせた体験型作品。AI占いを出発点に、『易経』の六十四卦を参照し、赤と青のボールの組み合わせで64通りの「答え」を鑑賞者が得ることができる。

展示風景より、何梓羽《リアリストの占い》
ハンドルを回転させ、いわばおみくじを引くようにして占いを体験できる

 かつて谷であり、現在も地下には川が流れる渋谷という町の背景に着目した髙橋穣。暗渠から汲みあげた水をガラスの装置に入れ、一滴ずつ落ちる水にレーザー光を当てることで、光を通して浮かび上がる水の景色を壁面に投影する《ドロップ #3》を手がけた。都市に潜む時間、あるいは都市の構造そのものが持つ記憶をゆっくりと移ろう光の映像が追体験させる作品だ。

展示風景より、髙橋穣《ドロップ #3》

 髙橋穣の《ドロップ #3》と同じように、木のパネルで組んだ装置で作品を発表しているのがmasao。「伝達するイメージ」から「消失するイメージ」への反転をテーマに、FRPで作家が自身の顔をモチーフに手がけた立体物を装置の内部で見て、ストロボ光によってその外側に像を浮かび上がらせる。作品タイトル《(  ) face》の(  )には、脳が認識を捏造する際に用いる「補完の記号」の意味が込められている。

展示風景より、masao《(  ) face》

 作曲家で楽器発明家、音楽機械の制作者でもあるジョージア出身のコカ・ニコラゼは、1台のカメラで1週間にわたって撮影した映像と、あわせて録音された音を映像編集のリズムに合わせて再構築したマルチメディア作品《ピープル, 9:48, 2024》を発表。ただ人々が「The quick brown fox jumps over the lazy dog.」を歌い、それがミニマルなビートとなってモニターの表情の動きと結びつく。意味性を排除した作品だからだろうか。その音と映像が鑑賞者を釘付けにする。

展示風景より、コカ・ニコラゼ《ピープル, 9:48, 2024》

 スタジオ勤務を経て写真家として活動を続ける黒沢鑑人は、「自分自身の写真を意図的に汚したり傷つけたりする衝動」を起点に生み出された「Self」シリーズを展示している。平面作品である自らの写真を解体し、それを立体的に再構築することで見えてくるものとは。感情の揺らぎや重なり、内面の複雑さがその立体的なセルフポートレートに立ち現れてくる。

展示風景より、黒沢鑑人《Self》

 Toniiによる《8/3-8/16 8/25 鏡の反対側》もまた、一種のセルフポートレートのような作品だ。「記憶をどう残すか」をテーマに、ハンガーを模ったレジン製の立体作品に、京都から神戸に移動した13日間で「取っておいたゴミ」を埋め込む。そして、8月25日には姿見を設置するために切り取った壁を空間に設け、自身の記憶を投影した。

展示風景より、Tonii《8/3-8/16 8/25 鏡の反対側》

編集部