特別展「生誕151年からの鹿子木孟郎 ー不倒の油画道ー」(泉屋博古館)開幕レポート。日本洋画に写実をもたらしたひとりの画家の足跡をたどる【5/5ページ】

 最後の第4章「象徴主義の光を受けて一不倒の画家、構想の成熟。」では、鹿子木の晩年の作品が展開される。徹底された技術のもと、写実的な作品を描いていた鹿子木だが、晩年は精神性を帯びた表現に変化していく。

 例えば、《木の幹》は写実的でありながらも、青空とのコントラストを含め、1本の幹の存在感を感じさせる描かれ方であり、対象の本質をとらえるような表現を試みている。

展示風景より、鹿子木孟郎《木の幹》

 また本展のキービジュアルとなった《婦人像》も、モチーフとなる婦人の背景となる室内の様子も描かれることで、たんなる肖像画を超えて、婦人の内面や当時の生活様式を思わせる作品となっている。

展示風景より、鹿子木孟郎《婦人像》

 自ら雅号「不倒」を名乗った鹿子木は、その画業を通して、徹底された修練のもと身につけた写実に忠実であった。しかしそれにとどまらず、晩年にはその基礎のもとに精神性を感じさせる表現を展開し、近代洋画家としてのぶれない軸と表現の幅をみせた。本展では、そんな鹿子木の作品が、前期と後期の展示入替を含め約80点見られる貴重な機会となる。ぜひ会期中は複数回足を運び、その作品世界を堪能してほしい。

編集部