第3章「再び三たびのヨーロッパ。写実のその先へ」では、2、3回目の留学経験にもとづく作品が紹介される。初回から継続してローランスに直接指導を受けた鹿子木は、さらにこの時期油画写生の技術を磨いていく。
《加茂の競馬》という大型作品は、緑、赤、白の3色が目立つ作品だが、じつはこの色彩は、ローランスの作品によく登場する3色でもある。本作より色彩においてもローランス作品を踏襲していたことがわかる。また本作では、フランス・アカデミズムにおける伝統的な描き方である、部分ごとに描いたものを組み合わせながら画面を構成するといった方法が用いられている。

本章で紹介される《ノルマンディーの浜》は、着衣人物の群像表現を課題としていた鹿子木が、ノルマンディー地方イポールの浜辺を舞台にした漁夫一家を描いたもの。本作は、1908年春のサロンで入選し、帰国後の同年秋の第2回文展にも出品された。近代日本洋画の金字塔ともいえる作品とされている。

《車夫一服》は、リアルな顔の皺や手足の筋肉などが描かれ、まるでそこに車夫がいるかのように感じさせる作品。鹿子木はアカデミー・ジュリアン時代に美術解剖学を学んでおり、人体における肉のつき方などを、実際に解剖された人体を観察しながら隅々まで研究していた。その成果が見事に現れた作品だと言えよう。




















