次なる「Reborn-Art Festival」に向けたプレイベントが始動。吉増剛造と青葉市子が交信した「声なき声」とは?

2011年の東日本大震災からの復興と新たな循環を生みだすことを目指し、17年に第1回が開催された「Reborn-Art Festival」。10年の節目を迎える21年の夏と22年春の2回に分けて、「利他と流動性」をテーマとする第3回「Reborn-Art Festival 2021-22」の開催が予定されている。そのプレイベントとして、ふたつのオンライン企画からなる「Reborn-Art ONLINE」が開催。2月13日には、詩人の吉増剛造と音楽家の青葉市子を迎えてパフォーマンスが行われた。

文=中島良平

吉増剛造と青葉市子

 芸術祭の発起人であり、音楽家の小林武史が総合プロデューサーを務める「Reborn-Art Festival 2021-22」。2021年の夏はインディペンデント・キュレーターの窪田研二を中心に企画を進める。そして、そのプレイベントとして窪田がキュレーションを担当したのが、ONLINE PROJECT「交信 − 声なき声を聴くためのレッスン」だ。

 2月13日にライブ配信され、現在もアーカイブが公開されているプログラム「交信1:石巻 − それから」には、「Reborn-Art Festival 2019」で石巻・鮎川に会期中滞在し、かつての商店を改装した「詩人の家」や「room キンカザン」と名付けたホテルの1室に滞在して創作を行った詩人の吉増剛造と、オープニングライブに参加し、地域にインスパイアされた新作アルバムとサウンド・インスタレーションを手がけた音楽家の青葉市子が登場した。

「Reborn-Art Festival 2019」より、吉増剛造「詩人の家」 撮影=中島良平

 第1部は吉増が滞在したホテルの1室「room キンカザン」から中継された。窓には吉増の詩がポスターカラーで綴られ、その向こうには金華山が壮大な姿を見せる。心地よいテンポで吉増剛造がカメラに向かって話す。

 「主役は金華山です。島がこの近さに見えて、驚異的な景色です。津波のときにはここの水が引いて陸地が見えて、金華山と鮎川がつながったんですって。ドキドキともうひとつ違う胸騒ぎがしてきますよ」。

「Reborn-Art Festival 2019」より、吉増剛造「room キンカザン」

 2019年に鮎川地区のキュレーションを担当した島袋道浩が、「ホテルニューさか井(現・島周の宿さか井)」の金華山を望める部屋の窓に吉増の詩を綴ったインスタレーションを構想し、ホテルの社長に了承をとって実現した。部屋は「透明な卵の殻で包まれたような結界」となり、ここを訪れる人の話を聞き、地域から得たイマジネーションが醸成され、吉増は言葉を絞り出しながら窓ガラスに紡いでいった。そのプロセスを表情豊かに話す様子は、さながらポエトリーリーディングのようだ。

 「鮎川ってところは金華山の向こうに黒潮と親潮がぶつかる有名な漁場があって、クジラもやってくる。『詩人の家』を手伝ってくださったアーティストの松田朕佳さんからクジラがいるって電話をもらって、飛んで行って見ましたけど、その姿にびっくりしてね。

 こんなふうにして窓に書くと、紙に書くのとは気分が違って、レンズの内側から向こうの景色を見ながら書くというのは初めての経験で不思議なものなんですよ。僕は『鯨』っていう文字が嫌いだから、クジラを表すのに『巨魚』と書いて『i sa na(イサナ)』と読ませた。古代の言葉です。こうやってクジラの歯でガラスを叩いたり、文字にならない文字を擦って書くわけです」。

「Reborn-Art Festival 2019」より、「詩人の家」で滞在制作を行った吉増剛造 撮影=中島良平

 窓ガラスに残る吉増の文字と、その遠くにそびえる金華山。吉増は19年夏の会期終了後も「room キンカザン」に通い、時間をかけて言葉を紡いできた。『石巻学』という雑誌で「大嫌いだった破滅型の豪傑の文豪」坂口安吾が、仙台から鮎川へとやってくる際に書いた文章に胸を動かされる機会もあったという。

 「鮎川に下っていくにつれて『南国的な植物地帯へ次第に踏み込んで行きつつあるような気持ちにさせられる』と書いているの。ソテツとか浜木綿とか、そういう南国の植物が生えているわけではないけど、19年に網地島に行ったときに僕も同じように感じたの。南の島に行っているような奇跡的な感じ。南に開ける暖かい海がそこにあって、坂口安吾の胸の奥の想像力みたいなのに打たれた」。

 それは、吉増が40年にわたって追いかけている民俗学者の折口信夫が伊勢志摩から「海の先に明るい暖かい妣(はは)の国があって、そこに深い心の故郷がある幻覚を見た」というビジョンと重なり、さらには、鮎川で時間をともにした音楽家の青葉市子の表現にもつながるのだという。『新潮』に掲載された青葉市子の日記についてこう話す。

 「『12月9日、一昨日見た夢を思い出していた。そこは琉球の古い家の天井で、私は畳の上に置かれたちゃぶ台を上から眺めている。(中略)かすかにかまぼこらしきものがある』とここから詩のような日記が続くんだけど、素晴らしい夢を書くね。あの青葉市子の声だから、これが夢だか現実だかわからなくなる。こういう夢を届けてくれる人が『Reborn-Art Festival』にやってきたんだよね」。

「Reborn-Art Festival 2019」より、青葉市子「風の部屋」

 2月13日のライブ配信当日の朝、青葉の夢日記にインスパイアされて撮ったという映画がトークの途中で流されたが、美しく儚げな空気が画面から伝わってくる。胸のなかに南の明るい海への入り口があり、それを感じられるのが「Reborn-Art Festival」なのかもしれないという想いを吉増がつぶやくように述べながら、第2部の青葉市子のライブへと引き継がれた。

 青葉のライブが行われたのは都内某所。幻想的な演出が施された空間で、透明感のある青葉の声と柔らかなギターの音、詩的な言葉で紡がれた歌が弾き語りで歌われる。鮎川で制作されたアルバム『鮎川のしづく』に収められた「星のプレゼント」や、「詩人の家」でのコンサートでも歌ったという「ひずみ」(歌:HARUHI、作詞作曲:小林武史)のカバーなど10曲が歌われた。ライブ途中の青葉の言葉が、吉増が鮎川で得たイメージとリンクする。

「Reborn-Art Festival 2019」より、青葉市子「風の部屋」

 「鮎川でしばらく過ごしているあいだ、何匹かのクジラと出会いました。そのクジラたちが、大きな海を移動して、冬は暖かな南の方へ、夏は涼しい北の方に。そして、『Reborn-Art Festival』が2019年に幕を閉じて、それでもクジラのことが、ずーっとずーっと体のなかにあり、南の方に下ってゆきました。吉増さんがおっしゃっていたように、私たちがいるところは、本当は北でも南でもない。東でも西でもない。命がただそこにクルクル、クルクルと、波打ち際で。波打ち際で」。

 ONLINE PROJECT #02は続く。3月26日には「交信2:アーティビズムとセラピー」として第1部でSWOON、李俊陽、花崎草の鼎談、第2部で花崎草のパフォーマンスを公開。翌27日の「交信3:私たちはどこに還る」では、第1部で写真家の志賀理江子と人類学者の石倉敏明の対談を、第2部で山川冬樹によるパフォーマンスを配信する。

 春のオンラインでのプレイベントを経て、夏には本祭が開催される。震災からの復興を契機にスタートし、新たな循環が生まれている「Reborn-Art Festival」が新たな土着性を帯び始めている。

編集部

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