2020年3月にWHOによって新型コロナウイルスの「パンデミック」が宣言されて以降、日常生活は大きな変化を余儀なくされた。また今年は東日本大震災の発生から10年という節目であり、日本では日常を脅かす自然災害にさらされる不安がつきまとう。こうしたなか、金沢21世紀美術館は21年度最初の特別展として、「日常のあわい」と題した展覧会を開催する。会期は4月29日~9月26日。
本展のテーマはその名の通り「日常」だ。コロナや自然災害によって私たちが意識せざるをえなくなった「日常」について、意識しないと見過ごしてしまう生活のなかのささやかな創造行為に着目した作品や、突然の喪失や災害に向き合う心の機微をとらえた作品、そしてかたちを変えて続いていく日常をあらわにする作品を介して、日常と非日常のあわいにある「現在」を浮かび上がらせる。
参加作家は、青木陵子+伊藤存、岩崎貴宏、小森はるか+瀬尾夏美、小山田徹+小山田香月、下道基行、髙田安規子・政子、竹村京の7組11名。
例えば青木陵子+伊藤存は、2017年から参加している「リボーンアート・フェスティバル」での制作をもとに、 編み物や園芸など人々の暮らしに根付く「つくる」という行為の可能性を引き出す作品を展開する。
歴史的建造物や鉄塔、クレーンなどのスケールを縮小し、質感や強度の異なる素材へと置き換えることで、見る者の認識を揺さぶるような作品で知られる岩崎貴宏は、「誰が袖図」をモチーフにした新作などを通じて、コロナ禍で変化した日常を示唆する。
また東日本大震災を機にアーティストユニットとしての活動を開始した小森はるか+瀬尾夏美は、「震災後、オリンピック前」と「コロナ禍」における東京の若者たちのリアルな声をとらえた映像と、瀬尾の言葉と絵、そしてコロナ禍の年表で構成される作品を発表。
日常の中で埋もれている異質のものに着目し、リサーチを重ね、写真や映 像、文章などで発表する下道基行は、義母が手近なものを蓋として代用する行為を追った《ははのふた》や、各家庭の中で欠けているものを別のもので補っている事象について中学生にリサー チしてもらった《14歳と凹と凸》を中心に、日常の中で意識されていない異質な風景や、人々が無意識に行っている創造行為を追った作品を展示する。
本展では、美術館の大小様々な展示室を使用し、一部屋一作家・ユニットごとに展示を構成。異なる作家同士のゆるやかなつながりも見どころとなる。
多種多様な表現を通じて、私たちを取り巻く「日常」について再考する機会としたい。