現代アニメーションの多様な想像力を展望する映画祭。「第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」レポート

毎年11月に北海道の新千歳空港ターミナルビル内で開催される「新千歳空港国際アニメーション映画祭」。空港施設内で行われる映画祭というユニークなコンセプトや、商業・非商業の垣根を越えた多彩なプログラムが、初回から注目を集めている。今年で6年目を迎える同映画祭。11月1日から4日間にわたり開催されたプログラムの様子を、短編・長編コンペティションの主要な受賞作品を中心にレポートする。

文=田中大裕

第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭メインイメージ

 11月1日から4日間にわたり、北海道の新千歳空港ターミナルビル内で「第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」が開催された。同映画祭は、2014年の初回開催から今年で6年目を迎えた。

 同映画祭の特色はなんといっても、空港施設内で行われる映画祭というユニークなコンセプトにもとめられよう。2014年の初回から一貫して、アニメーション研究者・批評家・キュレーターであり、プロデュースや配給等の活動も行う土居伸彰をフェスティバルディレクターに迎え、空港という国際交流の要所を舞台に、世界のアニメーションを展望する多彩なプログラムを用意している。

 もうひとつの特色は、インディペンデント作品を中心に据えつつも、商業・非商業というステレオタイプな分断からははっきりと距離をおき、劇場長編アニメやテレビアニメも積極的にフックアップしている点だ。今回も、『銀河鉄道の夜』(杉井ギサブロー、1985)や『プロメア』(今石洋之、2019)の爆音上映、『プロメア』の制作スタジオであるTRIGGERの中核スタッフをゲストに招いてのトークセッション、テレビアニメ『おねがいマイメロディ』シリーズ(森脇真琴、2005-09)のセレクション上映など、意欲的なプログラムが複数用意された。上記のような劇場長編アニメやテレビアニメの上映と、海外作品の特集プログラムやコンペティションを同一会場で行う構成からは、アニメーションの展望を多角的に示さんとする、映画祭の貪欲な姿勢がうかがえる。

 この姿勢はコンペティションにも色濃く反映されている。去年からは、それまであったインターナショナル、インターナショナル・ファミリー 、日本 、ミュージックアニメーションコンペティションに加えて、学生コンペティションと長編コンペティションが新設された。近年の世界的な傾向として、個人作家、もしくは個人作品で評価されてきた作家による長編アニメーションがにわかに活況をみせており、そうした動向に対応する試みと考えられる。

 また今年からは、募集範囲を狭義の「映画」から拡大して、GIFアニメーション、モーションコミック、VR(Virtual Reality)からも作品を募った。その結果、GIFアニメーションの服部グラフィックス《やかん》(2019)他や、モーションコミックスの最後の手段《えんちゃんち》(2019)など、ふつうの映画祭ではフックアップしないであろう表現もラインナップに加わった。スクリーンでの鑑賞を本来想定していない作品をスクリーニングする試みは、「映画」の条件を問い返す意味でも、きわめて興味深い実験といえよう。

最後の手段 えんちゃんち 2019

インターナショナルコンペティショングランプリ・日本グランプリ

 例年以上に取り扱う表現の多様性を増したインターナショナルコンペティションを制して、グランプリに輝いたのはトマーシュ・ポパクル《Acid Rain》(2018)だ。同作は登場人物たちの不安定な認識世界を、モーション・キャプチャによる不気味なアニメーションで描出した作品。

 審査員からは「大胆で野心的かつ、あらたな世代の到来を象徴している。 サブカルチャーの描き方について、美学的にも物語的にも、驚きを与えるほどに率直で誠実」と評された。意識の変容を表現するアニメーションの革新性と、物語と手法の高次元な調和が、高く評価された結果となった。

トメク・ポパクル Acid Rain 2018

 日本グランプリに選ばれたのは、築地のはらの《向かうねずみ》(2019)。同作は、東京都中央卸売市場が築地から豊洲へ移転したことをきっかけに棲家を飛びだした、1匹のねずみの旅路を描く。かわいらしいねずみのアニメーションを現実の空間にプロジェクション・マッピングする方法で制作された同作は、以下のように評された。

 「極限的にシンプルなアイデアを極限まで押し上げ、精密さと偶然性をうまく組み合わせています。 優しい作品ですが、決して甘すぎません。 そして、ユーモアを通じて、日本の歴史の最近の出来事に対し、間接的に微妙な方法で、しかし思慮深く言及しています」。

 社会問題をユニークな手法で切りとる繊細な批評性が評価されたかたちだ。

築地のはら 向かうねずみ 2019

新人賞・学生グランプリ

 新人賞を手にしたのはケビン・エスキューの《Now 2》(2019)。同作は、ドン・デリーロの小説『アンダーワールド』からインスピレーションを得て制作された。デイヴィッド・ホックニーを連想させるビジュアルと暗喩に富んだナラティブによって、アメリカ地方都市のリアリティをあぶりだす怪作だ。

 同作について土居は「人工知能が不完全なディープラーニングのもとに現実世界を再現したような不可解さをもつ」と語った。

ケビン・アスキュー Now 2 2019

 学生グランプリに輝いたのはマトウシュ・ヴァルハーシュの《After》(2018)だ。同作は、先住民族を主人公に据えて、他者に価値観を押しつけることを風刺的に描いた人形アニメーションである。「楽園とは自分の望むものではないということについての、機智とユーモア」が評価された。

マトウシュ・ヴァルハーシュ After 2018

ベストミュージックアニメーション

 ベストミュージックアニメーションに選ばれたのは、水尻自子の《来生たかお “マイ・ラグジュアリー・ナイト”》(2019)。同作は、今年の1月にNHK Eテレでオンエアされた『うたテクネ』のために制作されたMV(ミュージック・ヴィデオ)だ。『うたテクネ』は、現代の映像技法から毎回ひとつをとりあげて多角的に紹介する『テクネ 映像の教室』(2012-)のスピンオフ。日本にMVの文化が根づく以前の1960〜70年代に歌われた歌謡曲のために、現代のクリエイターたちが映像をあらたに制作するという企画だ。

 水尻は、来生たかお《マイ・ラグジュアリー・ナイト》(1977)を担当。本作では水尻のシグネイチャー・スタイルである、官能的かつ触覚的なアニメーションが存分に展開されている。

水尻自子 来生たかお “マイ・ラグジュアリー・ナイト” 2019

長編コンペティション

 長編コンペティションでは、次のような作品がラインナップされていた。

 インクによるにじむ作画を活用して実存的不安を詩的に描出したフェリクス・デュフォー=ラペリエル《Ville Neuve》(2018)。空間的なメタモルフォーゼを絶えずくり返す悪夢的なビジュアルを全面的に展開するクリストバル・レオン/ホアキン・コシーニャ《The Wolf House》(2018)。実写映像をもとにアニメーションをつくり出すロトスコープという手法を全面的に用いて、大橋裕之のマンガ『音楽と漫画』(2009)を長編アニメーション化した岩井澤健治《音楽》(2019)。3DCGのリアルタイムレンダリングを活用した即興的な制作方法によって全制作工程を監督自身が独力で行ったギンツ・ジルバロディス《Away》(2019)。

 各作品がそれぞれアニメーションの新しい創造力を象徴しているような、先鋭的なラインアップとなっていた。

岩井澤健治 音楽 2019

 グランプリは、それらの作品を抑え、ジェレミー・クラパン《失くした体》(2019)が獲得。審査員からは以下のように絶賛された。

 「未来についての希望を描いた物語です。終盤、決して交わることのないふたつの時間軸が出会い、その先に希望が誕生する展開に、驚きと興奮が止まりませんでした。そこで描かれた希望は、アニメーションというかたちを取ったフィクションならではの想像力の賜物であり、それがいまだかつてない高い技術レベルで表現されていました」。

 ギョーム・ローランの小説『Happy Hand』(2006)にアレンジをくわえて映像化した同作は、切断された手が本体の青年のもとに戻るためにパリをさまよう物語と、青年が事故で手を失うまでの物語が並行して語られる。

 3DCGソフトウェアの「Blender」を活用した、2Dと3Dのハイブリッドが特徴の同作。アニメ『NARUTO -ナルト-』等での活躍が有名なアニメーター、松本憲生のアニメートスタイルを連想させるような、カクカクとした運動が全面的に展開されている。そうした微細な跳躍を含んだ運動イメージと未来への想像力を問う物語の調和に、同作の美点をもとめられよう。

ジェレミー・クラパン 失くした体 2019

 コンペティションは総じて、アニメーションの新しい創造力を展望するラインアップとなっていた。新手法のデモンストレーションに甘んじることなく、現実への想像力を問い返す意欲的な作品が集まったことで、アニメーションの可能性を示す映画祭となった。

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