豊かな自然、個性豊かなショップで近年人気を集める那須塩原市の黒磯エリアで、多彩なアートプロジェクト「ART369プロジェクト」が行われている。
「ART369プロジェクト」とは、黒磯駅周辺から板室温泉までの板室街道沿いをアートで盛り上げるプロジェクトのこと。板室街道が主に県道369号であり、那須塩原市の特産品が牛乳(ミルク、369)であることから名付けられた。第1弾は国指定の重要文化財に、もうひとつの美術館の所蔵作品を展示した「旧青木家那須別邸にて〜ART369×もうひとつの美術館」、第2弾は川島小鳥や金氏徹平、今井麗らが参加した芸術祭「アート369フェスティバル」、第3弾は後藤武浩の滞在制作写真展「The Wind, The Sun」。そして第4弾として今年8月、S+N Laboratoryによるアーティスト・イン・レジデンスが開催された。
今回の参加アーティストは、美術教育研究者・美術家の西園政史と、美術家の榊貴美が2012年に結成し、人と町、社会との関係への関心をベースに、ワークショップや参加型アート作品、美術協力などを行う「S+N laboratory」。そのふたりが「つなぐ」をテーマに掲げ、アーティスト・イン・レジデンスで展開した作品やワークショップを紹介していこう。
まずは、「人と食を育む交流の家」を基本コンセプトとして今年7月にオープンしたばかりの「まちなか交流センター『くるる』」。JR黒磯駅から徒歩3分ほどのこの場所でふたりが発表したのは、日々少しずつ増え広がり、参加する人々がその場を共有しながらつくり上げていく作品「つむぐプロジェクト」だ。
この作品で用意されるのは、家型のカードと、丸、三角、四角などにカットされた紙、そして色鉛筆やクレヨンなどの文房具。参加者は思い思いに飾り付けや書き込みをし、最後に牛型や家型の木枠に吊り下がるロープにカードを結びつけていく自由な作品だ。「この作品では”明るさ”を重視しました。絵馬や短冊を彷彿とさせるためか、願い事を書く人が多い。子供たちが夢中になって取り組む姿が印象的でした」とふたりは話す。
いっぽう、板室温泉◯△□ギャラリーで展示された「黒板プロジェクト」は、「つなぐ」のコンセプトを重視し手がけられた作品。ギャラリー内に置かれた家型の立体はすべて表面が黒板になっており、来場者はチョークを使って自由な書き込みを行える。イラストや願い事、連想ゲームのようなものまで、参加した人々の人柄や表情が伝わってくるような本作。ふたりは「子供からお年寄りまで、気負いなく簡単に関わることができる作品を目指しました。言葉を残すことはみんな嫌いではないと思うんです。書いては消しを繰り返すことで残る痕跡を見てほしい」と語る。
今回の制作に際して、S+N laboratorのふたりはアーティスト・イン・レジデンスで那須塩原市に滞在。その期間中の7月31日には三島保育園年中組、8月1日にはひがしなす保育園年長組でワークショップも実施したという。子供たちが見せる生き生きとした表情。保育園スタッフからは「子供たちがいつもと違う表情を見せ、違う雰囲気が生まれた。新しい発見でした」との声が上がったという。
「ART369プロジェクト」の今後の取り組みは、「全国公募展 ~生きづらさを感じている人向けの公募展~ 」、そして中野浩二、舟越桂、三木俊治らが参加する美術展「美力街道-未知の駅」(2019年11月16日〜12月1日)。そして11月30日には映画祭が行われ、そのなかで「つむぐプロジェクト」のドキュメンタリーも上映される予定だ。
アートの取り組みで静かな盛り上がりを見せる黒磯エリア。食、自然も楽しめるこのエリアを、「ART369プロジェクト」にあわせて訪れてみてほしい。