政治的な被迫害者の家族にフォーカスした展覧会「呼吸鞦韆(Atemschaukel)」が、台湾の台北當代藝術館(MOCA Taipei)で5月26日まで開催されている。
本展は、中国のノーベル平和賞受賞者・劉暁波(リウ・シャオボー)の妻である劉霞(リウ・シア)と、台湾「白色テロ(二・二八事件以降の国民党政府による政治的弾圧)時代」の被迫害者の娘である蔡海如(ツァイ・ハイルー)による二人展。展覧会のタイトル「Atemschaukel(Breath Swing)」は、2009年のノーベル文学賞の受賞者、ヘルタ・ミュラーの受賞作品から由来するものであり、「呼息のブランコ」を意味する。政治的な恐怖が生活に浸透し、逮捕や拷問、殺害がいつでも起こる可能性がある戦後のソビエト連邦の労働収容所で、ブランコのような安定したリズムの呼吸が人間の存在感を示すことを詩的に象徴するという。
本展の開催にあたり、同館の館長・潘小雪(ユキ・パン)はこう語る。「政治的な迫害を経験したアーティストや作家は、アートや詩などの媒体を使ってその経験を語る。それは非常にパワフルな表現です。本展では、中国大陸と台湾の政治的な被迫害者の家族の対話を通して、正義と現代美術との関係性を鑑賞者に考えてもらいたいです。それは、不正義が横行する現代の社会にとって非常に有意義だと思います」。
中国で広範な人権活動に身を投じたことで知られている劉暁波は、1989年「六四天安門事件」のあと、3回投獄されて強制労働を受けた。2010年には「国家政権転覆扇動罪(クーデターの扇動)」による懲役11年の判決が下され、4回目の投獄となった。同年、中国在住の中国人としては初めてノーベル平和賞を受賞したが、17年に肝臓癌によって死去するまで一度も解放されなかった。詩人、画家、そして写真家である妻・劉霞は、劉暁波の4回目の投獄から死去1年後まで自宅軟禁状態に置かれていた。
いっぽう蔡海如の父・蔡意誠(ツァイ・イーチェン)は、1947年に台湾で起きた「二・二八事件」で投獄された祖父・蔡珍曜(ツァイ・ジェンヤオ)の釈放を求める活動を行っていたため、50年から約14年にわたって監禁されていた。76年、中国共産党のスパイという容疑で再度投獄された。蔡海如と家族は、そのあいだに監視・尾行され、悪意を持って威嚇されることに耐えてきたという。
本展では、同じく政治的な被迫害者の家族とした経験を持つ劉霞による詩と26点の写真作品、そして蔡海如の絵画とインスタレーション作品が展示されている。
不気味な顔を持つ人形をモデルに撮影した写真作品は、夫が強制労働を受けていたあいだに劉霞が制作したもの。劉暁波がノーベル平和賞を受賞したあと、劉霞は中国で公開展示を行うことが禁止された。2011年、現像した作品を当時、中国・北京大学のゲスト教授を務めていたフランス人の政治学者のギ・ソルマンに郵送し、ソルマンは作品をヨーロッパで初めて公開展示した。
劉霞の詩と写真に囲まれているのは、蔡海如が本展に合わせて制作したインスタレーション《Flower of Life》。この作品は、生命の花と呼ばれる「黄金葛(オウゴンカズラ)」や、冥福を祈ると思わせるロウソクのように巻いた紙が入っている透明のボトル、椅子によって構成されている。紙に書いたのは、「白色テロ時代」の被迫害者の妻と娘の言葉。鑑賞者は、椅子に座りながらそれらの言葉を読んで、その感情や思いを共感することができる。
劉霞の作品は、人間性における悪意を示しており、不公平や不幸を訴えているととらえることができる。いっぽう蔡海如の作品は、善と悪の二元性を超え、悲惨な歴史や経歴における希望を示している。
蔡海如は、「男性の被迫害者が英雄化されているいっぽう、その女性の家族が背負う苦痛を忘れていけない」と語る。「これらの経験をあらゆる人に見せるたびに、その苦痛は再び思い出されるのですが、こうすることでこそ、痛みが和らぎ、人生の新たな一歩を踏み出せるのでしょう」。