10月6日、アジア最大のパブリックなアートイベントのひとつ、「ニュイ・ブランシュ 台北 2018」が開催された。2002年にパリで始まった「ニュイ・ブランシュ」は、現在世界中の30都市以上で毎年開催される夜間のアートイベントだ。
このイベントの出発点は、モダン・アートの中心であるパリの一般市民に現代美術を理解してもらうことが目的だった。街の中で一夜限りのアートイベントを開催し、誰もが体験できる。パリの「ニュイ・ブランシュ」には、毎年100万人以上が参加するという。
今年3年目となった「ニュイ・ブランシュ 台北」は、台北市のもっとも古い歴史を持つ道、中山北路を中心に開催された。「逆さまの都市(Upside Down City)」というテーマのもとに、「今回のイベントは、都市に潜んでいる物語を発掘し、街を壁のない美術館や、舞台、劇場へと“逆さま”にするものです」と、ディレクター・胡朝聖(ショーン・フー)は語る。
今回のイベントでは、台湾、中国、フランス、カナダなどから参加した500人以上のアーティストによる43点のインスタレーション作品や70のパフォーマンス、様々な文化・アート機関や美術館による36の連携プログラムが展開された。
今回の見どころのひとつとして、フランスのパフォーマンスグループ「カンバニー・デ・キダム」によるパフォーマンス、《エルベールの夢(Herbert’s Dream)》が挙げられる。
真っ白な格好で竹馬に乗っている4人のパフォーマーが、観衆にアプローチしながら開幕式の会場・エキスポホールから広場まで練り歩く。儀式のようなダンスをしながら、パフォーマーたちの姿は膨らんで、4メートルの光輝くフィギュアへと変身。奇妙な音楽を伴い、広場の真ん中で星のような発光体を空に持ち上げる「魔法の儀式」を行った。
中山北路に沿って北端から南端へ歩くと、大通りだけではなく、裏通りの書店や地下鉄の連絡通路でも、多数のパフォーマンスやインスタレーション作品が上演・展示されていた。
例えば、台湾のアーティスト・余政達(ユー・ジェンダー)の映像作品、《腹話術師:梁美蘭とエミリー蘇(Ventriloquists: Liang Mei-Lang and Emily Su)》は、文化や、言語、アイデンティティの繊細な関係を明らかにし、台湾人と結婚した2人のフィリピン人女性を撮影したもの。また、蔡潔莘(ツァイ・ジェーシン)による大規模な彫刻作品《今日、お互いを抱き合おう!(Let us hug each other today!)》は、展示された腕を大きく広げているような作品で、人種や文化などの多様性を受け入れることを意味する。
いっぽう、中山北路南端の林森公園には、大いに注目を集めた2つのインスタレーション作品が展示された。
まず、中国のアーティスト、馮嘉城(フェン・ジャチェン)と黃苑倍(ファン・ユァンベイ)によって制作された《月の霾(Moon Haze)》は、大気汚染に注目したもの。
高さ10メートル、月をイメージにした発光物のなかに、微小粒子状物質(PM2.5)の密度に関するデータを収集する即時観測システムが設置されている。このシステムは、「月」の明るさを調整しており、「月」が明るくなればなるほど、PM2.5の密度は低くなり、空気の質が良くなったことを、暗くなれば悪くなっていることを意味する。
また、台湾のアーティスト・陶亞倫(タオ・ヤールン)が制作した《モールス符号(Morse Code)》では、参加者が入力したメッセージがプログラムによってモールス符号に変換され、サーチライトを介して夜空に送信される。
受信するのは、神々や亡くなった家族、宇宙人、過去や未来の自分など。このインタラクティブな作品は、人間の意識と技術の関係や、宗教、生命体などについて考えさせるものだ。
このほか、《ミッドナイト・サービス(Midnight Service)》というプログラムが、台北市立美術館、台北当代芸術館、台北国際アート・ヴィレッジで初展開。
このプログラムでは、上記3施設のホールがポップアップホテルとなり、参加者はそこに一泊することができる。また、チェックイン後、参加者が互いに様々なかたちのルームサービスを提供することで、美術館という空間の中でパフォーマンスアートを完成させる。
今回のイベントでは、台北とパリ、2つの「ニュイ・ブランシュ」がアーティストの交換を行った。台湾のアーティスト、崔廣宇(ツイ・グァンユー)の《見えない都市:台パリ・ヨーク(Invisible City: Taiparis York)》と陳萬仁(チェン・ワンレン)の《ザ・スイマーシリーズ(The Swimmer Series)》は、台北とパリの「ニュイ・ブランシュ」で6時間の時差で同時に展示され、2つの都市をアートでつなげた。
様々な文化が融合されている台北。都市を境界なき美術館に変容させる今回のイベントは、台北の多様性やアートシーンをパブリック・アートというかたちで、世界に発信するものとなった。