岡山芸術交流2019、その前に。ライアン・ガンダーら6作家が参加するプレイベント「A&C」をチェック

2019年9月に2回目の開催が予定されている「岡山芸術交流2019」。その開催を前に、プレイベントとなる「A&C」が11月3日にスタートした。ライアン・ガンダーなど6作家の作品が展示される。

リアム・ギリック 多面的開発 2016

都市でアートを楽しむ「A&C」

 2016年の初開催では、のべ23万4136人の来場者数と20億円以上の経済効果(ともに主催者発表)を生んだ国際展「岡山芸術交流」。その第2回が2019年に行われるのを前に、11月3日よりプレイベントとして「A&C」(Art & City)がスタートした。

 街歩きをしながら現代美術と出会うことを目的に開催される本イベントは、岡山芸術交流総合ディレクターである那須太郎がディレクションを担当。石川文化振興財団が所蔵する作品のなかから選んだ作品を、街中を中心に展開するものだ。

 「岡山芸術交流2016」を思い出させると同時に、「岡山芸術交流2019」につなげていくための装置でもあるという本展。那須は次のように意図を語る。

那須太郎

 「岡山に住む人たちに、『このイベントは自分たちのものだ』という意識を持ってもらいたいですね。岡山芸術交流2019のアーティスティックディレクターであるピエール・ユイグは『働く大人たちに作品を見てもらいたい』と言っています。例えば通勤時間に作品を見て、仕事以外のことを考えて自分を振り返る。そんなきっかけとなるような、日々の生活にアートがある環境をつくりたい。もちろん子供たちに見てもらうことも重要です。意味はわからずとも、見ることでなんらかの化学変化が起こる。アートは視覚芸術なので、見ることが一番大事なんです」。

国際的な6作家の作品を街中で見る

 「A&C」を構成しているのは全部で6つの作品だ。出品作家は前回展以来継続展示となっているリアム・ギリックとぺーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイスを含め、ライアン・ガンダー、ダン・グラハム、ローレンス・ウィナー、ヤン・ヴォーの6組。いずれも世界を代表する現代美術家たちが名を連ねている。

岡山ランドリービルに展示されているぺーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス《より良く働くために》

 今回のラインナップについて、那須は「岡山にある文化資産=場所の持つ意味と親和性ある作品を選んでいます。美術館に行かずともアートに触れ合える環境をつくることを目指しました」と語る。

 ではそれぞれの作品を見ていこう。

世界に散らばる「自由」の欠けら。ヤン・ヴォー《我ら人民は》(部分)(2011)

 前川國男建築として知られる林原美術館。ここの庭に展示されているのが、今年2月にニューヨークのグッゲンハイム美術館で個展「Take My Breath Away」を開催したことで一躍注目度を高めているベトナム出身のアーティスト、ヤン・ヴォーの《我ら人民は》(部分)だ(なお前回展では同じ場所にピエール・ユイグの作品が展示されていた)。

 一見すると抽象的な彫刻に見えるこの作品のモチーフは、アメリカの「自由の女神像」。ヴォーはこの自由の女神像を300近いのパーツに分け、原寸大で模刻した。世界中に散っている、分割された自由の女神像が伝えるのは「アメリカ主導の民主主義というイデオロギーの伝播」なのか、あるいは「自由や平等の破壊」なのか。その答えは鑑賞者に委ねられている。本展ではおよそ300のうち2つのピースが並ぶ。

ヤン・ヴォー 我ら人民は(部分) 2011

ひらがなが伝えるものとは? ローレンス・ウィナー《あっしゅくされた こくえんのかたまり / このようなほうほうで / ぼうがいにかんして / ちゅうせいしの ながれとともに / あちら こちらに》(2017)

 前回の岡山芸術交流にも参加していたコンセプチュアル・アートの牽引者、ローレンス・ウィナー。テキストと記号で成り立つ作品は「彫刻」として生み出されており、今年に入ってからはファッションブランド「sacai」とコラボレーションするなど、いまふたたび注目を集めている。

 《あっしゅくされた こくえんのかたまり / このようなほうほうで / ぼうがいにかんして / ちゅうせいしの ながれとともに / あちら こちらに》と題された作品は、前回展同様、映画館シネマ・クレール丸の内の壁面に展示。ウィナーはまず英語でテキストをつくり、日本語に翻訳したものとともに掲示するというプロセスを採っている。あえて「ひらがな」表記にすることで、すべての世代にアプローチすることを意図しており、テキストや背景の色は展示場所にあわせてデザインされている。

ローレンス・ウィナー あっしゅくされた こくえんのかたまり / このようなほうほうで / ぼうがいにかんして / ちゅうせいしの ながれとともに / あちら こちらに 2017

喪失の感情。ライアン・ガンダー《摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下》(2016)

 前回展では、「巨大なステンレスの隕石がどこかから飛んできて墜落した」という設定の立体作品《編集は高くつくので》を街中の県有地で展示し、話題をさらったライアン・ガンダー。今回も鑑賞者の予想をさらりとかわすような作品を見せる。

 岡山市立オリエント美術館に入館し、天井を見上げてほしい。そこには真っ黒な風船がひとつ天井にへばりつくように浮かんでいる。これがガンダーの作品《摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下》だ。

岡山市立オリエント美術館の天井に設置されたライアン・ガンダー《摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下》(2016)

 ファイバーグラスによってつくられたこの風船のテーマは、子供時代の「喪失」の感情。喜びよりも悲しみの感情のほうが人格形成の重要な過程だとする研究にインスパイアされたガンダーは、真っ黒な風船によって誰しもが経験したことがある(ように思える)風船を手放してしまった時の感覚と感情を呼び起こす。

ライアン・ガンダー 摂氏マイナス261度 あらゆる種類の零下 2016

伝統建築との呼応。ダン・グラハム《木製格子が交差するハーフミラー》(2010)

 60年代に美術批評からそのキャリアをスタートさせ、アメリカのコンセプチュアル・アートの先駆的存在として知られるダン・グラハム。その代表的なシリーズである「パヴィリオン」のひとつが岡山神社に出現した。

 「パヴィリオン」は「アートがいかに建築的なアプローチでつくれるか」という考えのもと制作されたものであり、本作は日本文化にインスパイアされてつくられたもの。障子を連想させるような格子やハーフミラー(光の一部を反射し、一部を透過する鏡)は、展示会場でもある神社と呼応するようでもある。

岡山神社に設置されたダン・グラハム《木製格子が交差するハーフミラー》(2010)

 なお、これら「A&C」作品は「岡山芸術交流2019」の閉幕(2019年11月24日)まで継続して展示。恒久的な設置も視野に入れており、那須は「岡山の街そのものを美術館にすることを目指したい」と話す。

 現代美術の世界をリードする作家たちの作品を街歩きしながら鑑賞できるこの機会。お見逃しなく。

編集部

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