リアム・ギリックがディレクション。「岡山芸術交流」開幕レポート!

岡山市で初となる国際芸術祭「岡山芸術交流 2016」が10月9日に開幕する。アーティスティックディレクターにリアム・ギリックを迎え、「開発 Development」をテーマに掲げる今回は、世界の第一線で活動する31組のアーティストが参加。その見どころをレポートする。

アーティスティックディレクターを務めたリアム・ギリックの作品《開発》(旧後楽館天神校舎跡地)。ギリック自身が「観客へのプレゼントのようなもの」と語るこの作品を使い、実際にミニゴルフが楽しめる

世界最高クオリティーのアーティストたちを岡山に

 開幕前日の8日に行われた記者会見で、石川康晴総合プロデューサーは「岡山芸術交流」の準備を進めるうえで念頭に置いてきたことを語った。それが「世界最高クオリティーのアーティストを集めること」「岡山に眠る既存資産を掘り起こすこと」の2つだという。那須太郎総合ディレクターは「岡山芸術交流」を日本各地で開催されている芸術祭と比較し、「アートの質にこだわること、そこをないがしろにしないこと。素晴らしいアートがまちに誕生することで、まちが変わり、人が変わっていくと思っている。非常にハードコアだが、1960年代から最新の動向まで、現代美術のメインストリームを見ていただける。現代美術を理解するきっかけになれば」とその独自の位置づけを語った。

岡山駅の壁面に登場した巨大バナー。参加作家のファーストネームが並ぶ

 また今回、初めて国際展をディレクションしたリアム・ギリックは「作品、作家、都市が交流し、関係性を構築することを心がけてきた。わかりやすさやとっつきやすさではなく、実際に体験することで素晴らしい体験や感動を与えてくれる作家を選んだ」とアーティストの選定基準についてコメント。「開発」というテーマが掲げられてはいるが、ギリック自身は「今回はこのテーマに対して反応せよ、答えよ、ということをしなくてもいいと(参加アーティストたちに)伝えた」のだという。「参加アーティストに共通テーマを探すよりは、作品とひとつずつ向き合ってほしい」。リアム・ギリックがそう語る参加アーティストのなかから注目の作品をピックアップして紹介する。

「異邦人」の目線 荒木悠《利未記異聞》(旧後楽館天神校舎跡地)

荒木悠《利未記異聞》の展示風景。自身の姓がもともと「荒鬼」という表記だったことから、自身を岡山に呼ばれた「鬼」と考え制作に臨んだと語った

 「作品制作は、その土地を理解する試みでもある」と語るのは、映像作品を手がける、1985年生まれの荒木悠。本展では、祖父のルーツである倉敷市を拠点に制作した新作を発表している。岡山県の特産品である「干しダコ」の風習から着想し、「ヒレと鱗のない水の生き物は食べてはならない」という旧約聖書「レビ記」に書かれたキリスト教のタブーと関連させながら構成。「異邦人」の目線から2つの風習を結びつけた映像作品は、他者理解について思いをめぐらせながら制作したという。

観客への「オープン・インビテーション」 アナ・ブレスマン ピーター・サヴィル《触れる作品》(旧後楽館天神校舎跡地)

アナ・ブレスマン ピーター・サヴィル《触れる作品》。中央に置かれたブロックも自由に動かせる

 壁から床へと伸びる深い青。絵画のようなこの作品は、自由に触れたり、上を歩き回ったり、座ったりと、観客が関わることで「完成」する《触れる作品》。工業用のろ過フィルターなどに使われる素材を使用してつくられたこの空間は、撮影現場で使われるブルースクリーンのイメージから着想されたという。CGにより架空の空間へと変貌する色である「青」を使い、観客の参加によって変化する「どこでもなく、どこにでもなりえる場所」を生み出した。

リアルとフィクションを往来する サイモン・フジワラ《ジョアンヌ》(岡山県天神山文化プラザ)

サイモン・フジワラの《ジョアンヌ》。会場となった岡山県天神山文化プラザは前川國男による建築

 個人史などをベースにフィクションを織り交ぜ、演劇性の高い作品をを構成するサイモン・フジワラは、美人コンテストの優勝経験をもつ自身の高校時代の美術教師をモチーフに、新作を発表。本作は、彼女のトップレス写真が生徒によって発見され、無断で公開されたという実際の事件を背景とする。イメージを一新するためにSNSで自身の姿を発信し続ける彼女の姿を映し出す映像作品を、ポートレートとともにインスタレーションとして構成した。

人工物と自然の揺らぎ ピエール・ユイグ《未耕作地》(林原美術館)

ピエール・ユイグ《未耕作地》。地元企業の株式会社山田養蜂場が協力制作及び展示に全面的な協力をしている

 林原美術館の庭に横たわる裸婦像。そこの頭部にはまるで脳みそのようにミツバチが巨大な巣をつくっている。科学や哲学、SFなど幅広い分野をテーマに作品を発表してきたフランスのピエール・ユイグの作品《未耕作地》のコンセプトは「人工物と自然の境界の揺らぎ」だ。ハチが絶え間なく群がり、頭部に有機的な動きを与えると同時に、冷たさを感じる頭以外の部分との対比が奇妙な違和感を生んでいる。またユイグはこのほか映像作品《無題(ヒューマン・マスク)》と水槽を使った《ズードラム4》の2作品を同会場で展示している。

アニメーションと透過するスクリーン レイチェル・ローズ《レイクヴァレー》(林原美術館)

レイチェル・ローズ《レイクヴァレー》の展示風景

 記録と考察を融合した映像作品を手がけるアメリカのレイチェル・ローズ。今回はセルアニメーションとコマ撮りアニメーションを融合させた新作《レイクヴァレー》を発表した。19~20世紀の絵本の挿絵からイメージを抽出した同作で、ローズは育児放棄というテーマを取り上げている。また、宇宙飛行士の実体験をもとにした、透過するスクリーンを用いた映像作品《すべてそしてそれ以上》、会場内の庭を使った立体作品《卵》も展示。

弓から弓への"Development" 島袋道浩《弓から弓へ》(岡山城)

島袋道浩《弓から弓へ》の展示風景。弓ごとに生まれる音に違いはあるが、不思議と心地良いハーモニーが生まれている。作曲は野村誠

 2台のコントラバスを弾く男女の映像。しかし、それぞれが手に持つ弓は、まったく異なるかたちをしている。ひとつは楽器用の弓、そしてもうひとつは矢を射る弓だ。ベルリンを拠点に活動する島袋道浩は、知人にコントラバス奏者がいること、そして岡山市の弓道場を訪れたことからこの作品を発想した。古来、武器として使用されてきた弓が、いつしか楽器用としての弓に「Development」したという逸話をもとに、本作では2つの弓が夫婦のコントラバス奏者(岡山フィルハーモニック管弦楽団所属)によって音楽を奏で、アンサンブルを生み出している。

街に溶け込む"ハードコア"な現代美術の数々

ライアン・ガンダー《編集は高くつくので》。ヴァントンゲルローによる原作より膨らんだ形になっているのは「異次元から飛来した」という設定ゆえ
ピーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス《よりよく働くために》(右)、 ローレンス・ウィナー《1/2 はじまった 1/2 おわった たとえいつであろうとも》 (左)の展示風景
リアム・ギリックの師匠でもあるマイケル・クレイグ=マーティンは、巨大壁画《信号所》を展示

 岡山芸術交流では、美術館などの施設外でも作品を楽しむことができる。ライアン・ガンダーは巨大なステンレスの隕石がどこかから飛んできて墜落した、という設定の《編集は高くつくので》を展示。同作はアーティストグループ「デ・ステイル」のメンバーであった、ジョルジュ・ヴァントンゲルローの彫刻をもとに制作されている。ガンダーはこれを「1900年代のヨーロッパから飛来した」としており、異なる次元からやってきた異物が、2016年の岡山市の日常風景に介入している。

 また、電球や椅子など、さまざなまモチーフを極めてシンプルに、かつビビッドに描くオランダのマイケル・クレイグ=マーティンは、ホテルエクセル岡山の壁面に巨大な蛍光灯を描き出し、蛍光色が街に向かって照射されるような効果を生んでいる。

 このほかペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス(岡山市内)や、フローレンス・ウィナー(シネマ・クレール丸の内)、フィリップ・パレーノ(岡山県立図書館)、アーメット・オーグット(岡山県庁)、ノア・バーガー(岡山城各会場入り口ほか)もお見逃しなく。

発売中の『美術手帖』2016年10月号は、別冊付録「岡山芸術交流 2016 スペシャル・ガイドブック」付き!

編集部

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